KT88pp 制作奮戦記その42019年12月09日 12時56分46秒

今回のアンプの設計仕様のポイントは以下の通りである。
1)初段から終段までバランス回路とする。
2)出力トランスの高域特性を改善するためにNFBを2次側からかける。
3)初段と終段を直結することで、カップリングCを排除する。

以下、これを実現するために試作段階で遭遇したトラブルについてまとめる。

トラブル一覧表

1)出力トンスの2次側の処理について

2次側をGNDから浮かせてはならないことは知っていた。それで回路としてはNFBの抵抗を介し、初段のバイアス電圧部で2次側出力がGNDにつながるように設計した。
ところが、KT88のアイドリングを上げていくと発振し、最初は原因がつかめず迷走するも、結論として2次側がGNDから「浮いている」ためと判明。
先人の知恵を拝借すると、バランス回路では4Ω端子をGNDに落とすケースと、100Ω程度の抵抗で0Ωと8Ω(もしくは16Ω)をGNDに落とすケースとがあることがわかった。Dynacoトランスは4Ω端子があるのでこれをGNDに落とせばシンプルに解決するはず。しかし、シミュレーションしてみるとなぜかひずみ率が悪化するとの予想。
手持ちの関係から最初は510Ωで試してみるとIp=25mA以上で発振してしまう。結局、270Ωで安定することがわかった。(前回掲載の基板には510Ωのときのものが写っている)

2)MOSFETの温度特性

当初、定電流回路にDN2540を使うことにしていた。ところが試作してみるとスイッチオンの後のドリフトが大きく、プレート電流が大きく変動し、全く実用にならない。
TL431のような温度補償された定電圧素子を使えば解決するであろう。しかし、できるだけ手元にある部品を使いたいとの主旨から結局サブミニチュア真空管7963に登場願った。結果、ドリフトは実用範囲に収めることができた。

3)初段の高域特性が極端に低くなる現象

初段はカスコード増幅回路を構成しているので出力インピーダンスがかなり高い。しかし、KT88と直結させても周波数特性にはさほど影響が出ないだろうと踏んでいた。
ところが測定してみると予想以上に高域が早く落ちてしまう。当初ほかに何か原因があるのではないかと悩んだが、結局KT88の入力容量が影響しているとの結論に至った。
となると対策は、カソードフォロワーかソースフォロワーを入れるしかない。実機では、定入力容量のMOSFETであるLND150を使うことにした。小さな部品なので基板に実装しやすかったことも決め手となった。
NFBをはずしてKT88のグリッド部分の周波数特性を測定すると、-3dBポイントは200KHz以上となり、満足できる結果となった。

以上のトラブルは、ベテランの方々から見れば設計段階ですぐに見抜ける程度の話であろう。しかしNFBをかけて出力トランスを使った真空管アンプのノウハウは皆無に近い私には、貴重な体験であった。
今回のことをとおして、「本物の知識は痛い目に遭わないと身につかない」、言い換えれば「身銭を切らなければ自分のものとならない」との真理を改めて学ぶ機会となった。

昨今はネット検索で手軽に情報を手に入れられるたいそう便利な世の中になったが、本物の知識を蓄えている人がどれだけいるのか、老婆心ながら心配になってくる。

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