クロック発振器のメンテナンス2024年03月25日 21時06分04秒

アナログオーディオにはアナログプレヤーが欠かせないように、デジタルオーディオにはクロック発振器がなければ音は出ない。クロックの品質が重要であることは論を俟たない。

我が家のクロック発振器の開発顛末については、Laptech OSCのカテゴリーにまとめてある。このクロックが稼働し始めたのは2020年初で、コロナ感染が世界を覆い始めていく時代だった。

あれから4年経過。クロックは24時間稼働状態だから、およそ35,000時間働いてきたことになる。気になるのはWE404Aの状態である。C3mは、データシートに10,000時間の寿命を保障していて、いかにも長寿命であることを特徴としている。WE404Aにはそのようなことは書かれていないから、たとえ動いているように見えてもさすがに寿命を迎えていると考えざるを得ない。

実際、音を聞いていてもなにかとげとげしいところがあって、最初は試作中のアンプのせいかもと思ったけれど、だんだんとクロックを疑うようになった。そこできょうWE404Aを交換することにした。
ついでに、写真に写っている和光テクニカルのメタルクリーナーで真空管のピンを磨く。これが実に気持ちが良いくらい汚れが落ちる。磨いていると綿棒が真っ黒になる。
主要な電圧を確認。そうしたらなんとB電圧が規定よりも高い。105V付近になるべきところが160V。あきらかにどこかがおかしい。調べるとどうも定電圧放電管WE427Aが疑わしい。ついでにこれも交換(これもピンを磨いておく)。
こうして何度も電源のON/OFFを繰り返していたら今度はヒーター電圧もおかしくなった。なんということかorz。こちらは理想ダイオードブリッジの故障と判明。なぜ故障したかは不明。手持ちのInfineonのSICダイオードに交換。

最後にオシロスコープで発振波形を見ながら慎重にトリマーを回して最適点を探す。いつものことだがこれには骨が折れる。

ということで格闘すること数時間。音出ししてみるとやはりWE404Aがへたっていたのだろう、実に音が新鮮で開放的になった。これで無事に復活した。

Laptech 発振器にセミリジッドケーブルを導入2023年01月11日 19時31分34秒

TDA1541AパラDACが完成したところで、次の課題はクロック系にセミリジッドケーブルの導入である。
とは言っても、セミリジッドケーブルの扱いは簡単ではない。発振器の構造に合わせて布線図を書いてメーカーに特注するのが一般的で、素人には加工はできない。加えて特注品になるのでどうしても高価になる。

そこでオークションの登場となる。高周波測定器の内部で使われていたセミリジッドケーブルがときどき出品されていて、値段も格安である。ただし、長さや形状がまちまちなので、自分の欲しいものと合致するかどうかは運次第である。

ということで、なんとか合いそうなものが入手できたので早速インストールした。

まずは、Laptech水晶発振器の内部から。発振器の基板から6dBアッテネーターを経由して後面パネルのSMA出力端子まで、ちょうどうまくおさまった。
パネルに取り付けたSMA端子から、DAC基板に接続する。
そのOSCとDACを結ぶケーブルだが、長さが25cmしかなく、おまけにコネクタの向きがケーブルに対して直角(L型)なので、いかにも使いづらい。OSCとDACを背中合わせにしてなんとか結合させた。
続いてDAC内部。こちらはちょうど良いあんばいにおさまった。
さて、音はどうなったか。
予想通りというか期待通り、セミリジッドケーブルの効果は現れた。可聴帯域が低い方にも高い方にもすっと伸びていき、空間が広く透明になる。

こうしてみると、デジタルケーブルで音が変わるというのもうなずける。

【後日談】
OSCとDACを結ぶケーブルがあまりにも余裕がないので、その後、50cm長のケーブル(ストレート型)を入手して入れ換えた。モデルは、MICROFLX 165。これで架台にうまく納まった。

OSCと矩形波変換回路にまつわるトラブル覚え書き2021年01月16日 20時30分58秒

ことの発端は、DDCが不調となって盛大にノイズを発生するという現象(最近のはやりのことばなら事象と言うべきか)から始まった。不具合を引き起こすようなきっかけが明確であれば対策もしやすいのだが、今回はまったく思いつかない。とにかくある日突然にゲリラのごとく出没し、おおいにとまどった。

まず最初に疑ったのがOSCの発振停止。しかしオシロスコープをつなぐと、いつもきれいな正弦波が見えて、これはシロとなる。(これが罠であることが後で判明する)

次に疑ったのが定電圧回路。出力の波形を観測すると、100Hzののこぎり波が見えて、確かになにか不具合がある。これを機会に、制御素子をDN2540からGS66502Bに入れ替えた。しかしそれでもDDCの不具合は起きる。これも直接の原因ではなかった。

いつものようにここで迷路にはまり、すったもんだしてやっと真の原因にたどり着いたときには、調査開始から数週間が経過していた。

長い話を短くすれば、原因はOSCの発振停止だった。OSCの出力は、SMAケーブルを経由して矩形波変改回路のLTC6957に入力される。このときOSCは負荷(LTC6957)の影響を受けるのだが、ずっと正常動作していたので、なにも問題がないと思っていた。

しかしOSCが時間経過とともに微妙に特性が変化して、最適動作点が移動し、その結果発振停止に至ったものと推測。ちなみに50Ωターミネータでは安定して発振するので、OSCだけをオシロスコープで見たとき、原因がつかめなかったわけである。電源が入っていないLTC6957でも問題が起きないのだが、電源を入れたとたんに不安定になる。

再度OSCの調整をし直したところ、動作が安定した。いまはその状態でフタを閉じている。しかしいつかまた再発するだろう。恒久対策を施す必要がある。

こういうことに関しては高周波屋さんが詳しい。「トロダル・コア活用百科」を開くと、OSCが負荷の影響を受けにくくするために、例えば3dBのパッド入れることが明記されている。そうだったのか。調べると秋月電子でも売られている。後で買っておこう。

ということで原因は特定できたのだが、試行錯誤の途上で大きな発見があった。LTC6957の出力についてである。データシートには次のような回路が掲載されている。(画像はデータシートから)
これを見ると出力はなにもターミネートされず、そのままDDCの外部クロック端子につないでよいかのように解釈できる。それでそのとおりにしていた。

しかし今回の不具合調査をしているうちに、もしかしてこれも関係があるかもしれないとの仮説を立て、91Ωでターミネートしてみた。これがその様子。丸印で囲んだところ。
結論から言えば、これは不具合には関係がなかった。しかし、出力波形は、前回の記事にあるとおりにオーバーシュートやアンダーシュートはほとんどなくなり美しい波形に大きく改善され、音も大きく変わった。これまで発振回路ばかりに注力していたけれど、矩形波変換回路がここまで音に影響するのかと今更ながら驚くとともに、オーディオの奥の深さを思い知った。

矩形波変換(LTC6957)の出力波形2021年01月14日 22時23分42秒

励磁型スピーカー用電源の製作がなかなかはかどらない。理由は、ここにきていろいろな不具合が発生して、その対処に追われていたから。ただ、禍転じて福となるとのことわざにあるように、トラブルシューティングをしているときに、予想外の進展があって、音が大きく改善された。その顛末はまた後で書くことにして、まずは写真を見ていただく。

これは、Laptech水晶を使ったOSCの正弦波を矩形波変換するLTC6957の出力(対策前)である。ただし、使っているオシロスコープとプローブの限界から、立ち上がりがなまっている。大きなオーバーシュートやリンギングが発生していることが見て取れる。
これが今回の対策(後述)で次のようになった。
恥ずかしながら、これまでどんなに努力してもこれほどきれいな矩形波を得ることはできなかった。それがいとも簡単に出てきたときには思わずうなってしまった。

そして出てきた音を聴いたときには、今度は思わず声が出た。いつも厳しい批評をする妻が「音が良くなったね」とおっしゃってくれたことから(涙)、いちおう客観性がある結果であることは間違いないだろう。

いったい何をしたらこうなったのか。それは次の記事で。

試作12号 その6(水晶発振子 4個シリーズ接続)2020年11月16日 13時38分55秒

対策後の出力をしっかり観測しておく。
まずはオシロスコープの波形。
回路は、11月12日に掲載したものと同じ。それなのに出力電圧が大きくなっている。はっきりした理由は不明だが、実装の違いによる影響と推測される。恐るべし高周波.

続いて発振周波数の近傍に分布するスプリアスの様子。詳しい人ならばいろいろと意見を言うことができるだろう。

続いて高調波の様子。前回、同じ回路で測定したときは二次までしか観測されなかったのに、今回は三次まで写っている。ただ、高調波の観測は難しくて、測定条件を変えるところころ変化する。このあたりのノウハウはまだよくわかっていない。
ちなみに高調波のレベルは以下の通り。

1次   +0.6dBm
2次   -47dBm
3次   -54dBm

前回ほどには低ひずみ率とはいかなかった。調整中、バリコンをちょっとでも動かすとどんどん変わってしまう。低ひずみ率であれば低位相雑音であるのか、そこあたりの相関まではつかめていない。そもそも調整があまりにもクリティカルなので、安定した発振状態を確保するのが精一杯であった。

続いてSpanが1KHzのときの波形。位相雑音が小さくなれば、中心周波数近傍のピークは鋭くなるはず。しかし使っているスペアナ(HP 8560A)の測定限界で、これ以上は観測不能である。

もっとも知りたかったのは、中心周波数の左右にあった側帯波が消えているかどうかである。ご覧の通りほとんど見えなくなっている。対策が功を奏し、仮説の正しかったことが証明された。ただし完全に消えたかと言えば微妙である。中心周波数から左右100Hzのところに若干残っているように見える。これを完全に消すには実装方法をさらに追い込む必要がある。ただ、私にはこのあたりが限界。

最後に、実装状態。
当初、増幅基板をアルミボックスに固定する予定であったが、まだ実施していない。前回までは、ポリエステル布を間に挟んで緩衝材としたのを、今回はαゲルに置き換えた。
おもしろいことに、対策前はアルミボックスに基板を近づけると動作不良となったのが、対策後はアルミボックスから基板を離すと発振が停止するようになった。Qがブロードにはならないので、対策の方向性は合っていると思われる。

調整について。
前述の通り、調整は非常にクリティカルで、バリコンをもっと小さな容量にしないとこれ以上追い込むことは困難であろう。

予想していたことではあるが寄生容量の影響を非常に受けやすくなった。スペアナで観測しながらシャーシのフタをすると、発振周波数のピークが移動するので、再度ピークのスキャンをかけなければならない。

驚いたのは、バリコンにセラミック製の調整用ドライバーを近づけてもドリフトしてしまったこと。これにはまいった。ドライバーを離したときの状態を予測しながら調整するのだから、ほとんど勘の世界である。

根本的な対策としては、ゼロから実装方法を見直すしかない。そこに待っているのは、HPのスペアナの構造に見るような、部品や基板、そしてケーブルさえも非常にリジッドに固定されて、厳しくシールドされている、「超」の字がつくような世界であろう。

そんなわけで、この発振器をつくるにはオシロスコープだけでは難しく、スペアナは必須。それだけでハードルはかなり高くなる。追試する方がいるとは思えない。
ただ、発振器はプロの世界と思ってこれまで敬遠していたけれど、アマチュアでもやる気さえあればここまでできるということを知ったことは非常に有意義であった。

壊れている中古のスペアナを買ったときは、まるで清水の舞台から飛び降りる気持ちであったが、今は買って本当によかったと思う。
それからもう一つ、優れた性能を有するLaptechの水晶発振子を個人的に購入できたことも幸運だった。これを紹介してくださったdiyAudioのandrea_moriさんに感謝したい。