VP-7723A 故障解析その12021年11月28日 18時57分18秒

実を言えば、この4月にも同じような故障が起きていた。そのときはCPUを新しいものに入れ替えたところ症状がおさまったので、故障箇所は特定できたものと判断し、この件をクローズとしたつもりだった。

ところが今回また同じ現象が再発したということは、CPUが犯人ではなかったということになり、振り出しに戻った。では真犯人は誰なのか。

<故障状況>
そこで捜査開始に当たって、故障状況を説明する。
(1)一日以上放置してからスイッチONすると、正常に立ち上がる。
しかし数分経過すると、表示パネルが異常な数値を表示してそのままフリーズする。そのときすべてに押しボタン動作を受け付けない。
(2)上記の状態でスイッチOFFし、数分後に再度ONとすると、正常に立ち上がる。しかし、今度は30秒程度再びフリーズする。
(3)上記の状態で再びスイッチOFFし、数分後にONとすると、正常に立ち上がる場合もあるが、最初からフリーズしてしまう。
(4)以後、何度スイッチOFF/ONを繰り返しても、最初からフリーズして機能不全となる。
(5) 上記の状態で一日放置すると、(1)の状態に戻る。

この状況からの最初の推理は以下のとおり。
・正常に動作する場合があるのだから、パターンの断線の可能性は除外して良い。
・電源を入れてから時間が経過すると不具合が出るのだから、部品の自己発熱によって機能が不安定になっていることが疑われる。
・もしそうであれば急冷スプレーを吹きかけると現象に変化があるはずなのに、そうでないということは別の要因を考えなければならい。
・いずれにせよ、部品の劣化が関わっているのであれば、理屈に合わないと思われるような現象が起きることはあるかもしれない。


<捜索 その1>
まずはお決まりのコースで、CPU周辺にある部品の半田付けをやり直したり、急冷スプレーを吹きかけて何か変化があるかをたどってみたが、まったく何も出ない。
可能性は低いけれど、いちおうパターンの断線を疑ってみたが、何も発見できず。

ここで万事休す。手詰まり感がただよってきた。
それでも何か見落としているはずと、フトンに入っても考え続け、いつの間にか眠りに落ちるというような日を過ごす。

翌日ふと思いついたのが、もしかして発振回路が動いていないのではということ。早速、CPUの近傍にあるTP1の波形を確認する。
オシロの画面を見て目を疑った。発振はしている。ところが何度見ても、およそ50Hzと表示される。ここは8MHzが正常な値。あまりにもかけ離れた数字なので慌てたが、何度測っても50Hzである。
発振回路がうまく動いていないことがこれで判明。
Q1,Q2,Q3のB-E間電圧を測定したところ、これは正常と判明。そうすると最も疑わしいのは、水晶発振子ということになる。

VP-7723A 故障解析その22021年11月28日 21時32分50秒

前回から続く。

<捜索 その2>
あいにく手元には16MHzの水晶発振子はなかったが、16.9244MHzはあった。とりあえず、原因を特定する目的でこれに入れ替えたところ、うまく発振してくれた。

証拠にTP1での波形を記録しておく。1/2分周しているので、その通りの周波数となっている。

これで故障は直ったと確信したが、甘かったorz
さすが玄人泣かせの機械である。そう簡単には赦してくれない。現象は全く変わらなかった。

もっと不可解だったのは、発振回路がうまく動いていないのに、正常動作しているように見えていた時期があったことだ。水晶発振子を元して故障を再現するまでの気力がないので、ここはお蔵入りにして、先に進むことにした。

VP-7723A 故障解析その32021年11月28日 21時43分35秒

前回から続く。

<捜索 その3>
こうなると捜査は全く前に進まない。精神的に最もつらい時期である。CPU周辺のロジックICは何度捜査してもシロとしか出ない。疑わしいコンデンサも新しいものに入れ替えた。CPU基板のC1,C3(ともに100μF)は、はずしてみると容量抜けしていたので、交換は正解だった。しかし、それでも現象は変わらず。

ここで手をこまねいているわけにはいかない。何かあてがあるわけではなかったが、とにかくCPUのピンにプローブを当てて波形を見ることにした。そうすると、データアドレス、バスアドレスはもちろん、ほかのピンもそれらしく、忙しく信号を出している。CPUはシロである。今回も空振り。

もしそこで終わっていたら、おそらく故障解析は頓挫してしまっていたかもしれない。このときある現象に目がとまったことが、あとから思えば大変な幸運だった。CPUの7pinの信号を観察していたとき、前面パネルのボタンを押すとLからHに変化するではないか。

データシートで調べると、pin7はRST7.5という入力信号を扱う。 (NECのuPD8085Aのデータシートから引用)
実際のピンは赤丸で囲った場所になる
これから何がわかるか。
・一時はフロントパネルの基板の不具合も疑ったのだが、パネルから正常な信号が来ているのだから、フロントパネル基板はシロと見てよい。これで捜査範囲が絞られたのだから、大きな進展である。
・CPUの入力信号は正常であるということは、不具合は出力信号線に関わる部分ということになる。

では、そこはどこなのか。捜査範囲をもっと絞るためには、どうしても詳細な回路がないと手も足も出ない。おそらくデジタル回路に詳しい方であれば、部品番号を見ただけでおおよその検討をつけられるだろうと思うのだが、残念ながらそこまでの知恵は私にはない。さて、どうするか。

VP-7723A 故障解析その4 一応解決2021年11月28日 22時19分26秒

前回から続く。

<捜索 その4>
VP-7723Aの回路図は、ネットをいくら探索しても出てこない。手に入れるためには、お代を払わなければならない。日本の某オークションにはときどき出ることもあるのだが、さすがにあの値段では手が出ない。幸いにしてeBayにリーズナブルな値段で出品されているのを発見し、出品者と値段の交渉をして値引きしてもらい、購入に至った。ネット時代はすばらしく、それから数時間後に手元に回路図付きサービスマニュアルが届いた。

回路図を眺めてCPUから出ているアドレスバスとデータバスがどう流れ行くのかを確認。そうするとバスラインが外部端子に接続されるその直前にU29がある。
部品番号はuPD71055GB。デジタル回路に詳しい方なら、これを見てピンとくるのだろう(私は全くピンとこなかった)。このICはデータシートによれば、3つのI/Oポートを持つパラレルインターフェースと説明がある。

もしこれが故障したらどうなるか。正常なアドレス信号やデータ信号がフロントパネルの基板に行かなくなり、パネルの表示はフリーズしてしまうか、まったくでたらめの数値になるだろう。これがクロの可能性が出てきた。

最後の証拠をどうやってつかむか。急冷スプレーを吹きかけても、現象に変化はない。では、半田付けをし直してみたらどうか。これがその写真。
結果。
スイッチONしたら、パネル全面のLEDが点灯し、これまでなかったような異常な表示となった。スイッチを何度入れ直しても同じ。これには頭を抱えてしまった。ちょうど就寝時間が迫っていたときで、これ以上追求することができず、その夜はフトンへ。しかし、気になってすぐには寝付けない。

翌日、出勤前にダメ元でスイッチを入れてみた。驚いた。正常動作するではないか。数分後にフリーズするかと思ったら、いつまでもそんな気配がない。いったいなぜ??ともかく、これは喜ばなければならない。
気もそぞろに仕事から帰ってきて、スイッチを入れてみると、これも正常である。直ったらしい。しかし昨夜のあの異常はなぜ起きたのか。そこだけ未解決のまま、今回はこれでクローズとなった。

まとめると、今回の故障は二つが重なっていたことになる。
水晶発振子の故障とU29の半田付け不良(と思われる)。

なお、水晶発振子の周波数のことであるが、16.9344MHzのままでは測定器として使えない。具体的にいえば、周波数を1KHzに設定してもそれより低い数値が表示されるし、歪率の数値も正確ではない。周波数、歪率共に内部で発振周波数を参照しており、測定数値は16MHz水晶発振子の精度に依存するためだ。
早速、Mouserに誤差±10.00ppmのものを注文した。