真空管ヒーター 定電流点火回路の考察(9)2016年01月04日 12時24分11秒

さて、整流管WE412Aのヒーターを定電流点火した効果はいかに。

基板を組み上げたのは、昨夜の遅くで電圧やら電流やらを確認するところで終了。途中で切り上げたのが気になって睡眠も途切れがち。朝起きて早々にオシロスコープを取り出して発振の有無を確認。問題なし。

出力波形を観測すると、ノイズ成分のみ。グランドノイズが400uVrmsに対してWE412A用回路の出力端では600uVrmsという結果。

音を出した。
一聴してすぐに効果が確認できた。やはり原因は整流管のヒーター点火にあったと確信。

これまでのが「のり」でへばりついてしまって前に出られない、立ち上がれない音だったとするなら、今回のはすべてを拘束していた「のり」が綺麗さっぱり消えてなくなり、まるで立体的になったかのように前に出てくる音である。

あるいはこうも言える。これまでの音が、ボールをバットの芯でとらえられずにフライになったり、ぼてぼてのゴロにしかならなかったとすれば、今の音はバットの真芯でとらえてライナー性のヒットを打っている音。
もちろん、ホームランを打てば申し分ないのだが、そこはこれからに期待する。

具体的に言えば、ウェス・モンゴメリーのギターが変わったのかと疑うほど出てくる響きが異なる。詩的な表現をすれば、響きが匂い立つというところか。


気になっていた中音域のピークはもちろん消散した。低音もほぐれてきた。エージングが進めばもっとほぐれるはず。全体の重心が思ったとおりに低くなり、見通しが良い。

これまで音が良い方向に変化する時は音圧も上がってフェーダーの位置が低いところ(減衰量が多い位置)で止まったのだが、今回はそうではない。むしろフェーダーが高い位置(減衰量が少ない位置)になる。音が前に出ないのではなく、改善の結果ノイズ成分が少なくなったためと思われる。

音が悪い時はどんなにフェーダーを上げても音量が大きくならない。しかし音が良くなるとフェーダーの位置に比例してきちんと音が前に出る。

年末から正月にかけてちょいと悶々とした気分に支配されていたが、これでやっと新年を迎えられる。

みなさまあけましておめでとうございます。

真空管ヒーター 定電流点火回路の考察(10)2016年01月04日 12時48分26秒

整流管のヒーターを定電流点火することを最初に提唱したのは、石塚峻氏と新忠篤氏であろう。

新氏は、ラジオ技術誌1996年2月号で「300Bシングル・パワーアンプ&整流管DC定電流点火用アダプタの製作」を発表している。その中の「W-274Aを定電流点火でテスト」という章では次のように書かれている。

「定電流化したアンプは、高音から低音まで透明感があり、うるさい感じがまったくなくなり、なめらかな音になった。
交流点火では、中低音の音がふくらみ、芯がなく、ざわざわした余分な音がつきまとい、何となくほこりっぽい感じがある。」

使用しているアンプは全然違うけれど、私が受けた印象は同じである。

そして「オール定電流点火アンプの音」の章には次のように書かれてある。
「アーティストの息づかい、口ずさみ、録音スタジオの外をとおる自動車の音、オーケストラの内声部の旋律、時々起こる演奏の不揃いなど、今まで陰に隠れていた部分が不思議なほど聞こえてくる。
それにもまして、演奏家の表現が手にとるようにわかるようになった。音楽のジャンルに区別なくである。」

ところがその後、新氏が電流点火にこだわり続けたのかというと、どうもそうでもなさそうな気がする。

シミュレーションしてみると、これらのICはオーディオ帯域で複雑な位相回転をする。当然音に強い個性が出るだろうと予想される。

これは推測であるが、当時使用していた定電流ICであるLM-338Kの癖が気になったのではないか。
最初は良く聞こえるのだが、この癖が耳につくようになると我慢が出来なくなり、結局交流点火に戻ってしまったという筋書きである。もしそうであれば誠に惜しいことである。

もっと不思議なことは、これほど定電流点火の優位性が判明していたのにもかかわらず、真空管アンプで定電流点火が採用されるのはいまだに稀であるという事実である。
まして整流管の定電流点火に関しては新氏と石塚氏のほかは寡聞にして知らない。これはいったいどうしたことだろうか。

定電流点火は増幅部と同等かそれ以上の手間がかかることは確かであろう。純粋な真空管アンプにこだわり、半導体を使うことに拒否反応があることも否定しない。

新氏が記事を発表された時代は、定電流回路の研究はまだ着手されたばかりで多くの制限があった。評価があまり高まらなかったのはいたしかたがない。

しかしいまはもっと優れた素子なり回路なりが開発されている。事実、石塚氏はきちんとした定電流回路で評価して欲しいと訴えいている。

ぜひ、この分野で多くの方に挑戦していただきたいものだと願う。

ボルテージ・ミラー型シリーズレギュレータ(1)2016年01月05日 22時43分35秒

ことの発端は、DDCとして使っているI2SoverUSB( http://jlsounds.com )の電源からである。

このDDCは、USB側とDACへの出力側とがIsolateされており、そのためにはそれぞれのテリトリーに独立した電源を必要とする。DAC出力側はもちろんSalasタイプのシャント型レギュレータである。USB側もそのようにしてきた。

しかしこれが大飯食らいで400mAを消費する。シャントレギュレータはこれにアイドリング電流が加わるので、効率が悪い。なんとかしたいと常々思っていた。シリーズレギュレータならばその点、効率がよい。

しかしどこかの一般的なレギュレータをそのまま持ってくきたのでは曲がない。たまたま上條信一氏が発表された「ボルテージミラー2SJ113/2SK399 SEPP 40W+40W」( http://www.ne.jp/asahi/evo/amp/J113K399/report.htm )を見ていたら、そこにヒントがあることに気がついた。

詳しくは同氏の記事を参照いただくとして、単純な回路でありながら高い性能のレギュレータをつくることができる。

基本回路は掲載の回路図の上側になる。ただし、入力電圧の変動を受けやすく、意外にPSRRが高くならないという欠点が目につく。

そこで定電流回路で培ったアイデアを導入して、カレントミラーでQ1のコレクタ負荷を与えることにした。その結果PSRRが劇的に改善される。

ただし問題がないでもない。
周波数特性のグラフを見て分かる通り、位相の回転がおよそ2KHzから始まっており、オーディオ帯域に侵入している。これが音に影響を与えるだろうことは容易に想像できる。原因は、制御素子であるIRF610の特性によるもので、RF用途のMOSFETに入れ替えるとこの問題が解決されるようだ。
いまのところ、USB側の電源の質は音に影響しないようなのでこのままとしている。今後の課題とする。

現在、DDCの電源として活躍中である。

ボルテージ・ミラー型シリーズレギュレータ(2)2016年01月05日 23時02分42秒

負荷抵抗の変化を横軸に取って、出力電圧がどのように変化するかをシミュレーションした。

ボルテージ・ミラー型シリーズレギュレータ(3)2016年01月05日 23時08分27秒

実装した様子。
整流用ダイオードと平滑コンデンサも搭載している。

出力パスコンは、従来のシリーズレギュレータであれば10uF以上が常識であろう。ところがこのタイプでは22nFでも発振することなく十分に安定である。