試作12号 その5(水晶発振子 4個シリーズ接続)2020年11月16日 09時31分54秒

前回(11月12日報)の記事で、スパン1KHzで観測したときに中心周波数の左右に側帯波があることを書いた。なぜこれが出てしまうのか。当初は、水晶発振子の励振レベルが大きいためと推測していた。結果から言えば、これは誤りであった。
なので、これまでの記事で「励振レベルが大きいため」と書いてあるところはすべて削除訂正する。

当初、この仮説が正しいという前提で増幅回路の定数、特にWE404Aの第二グリッド(SG)の抵抗と、カソード抵抗の値をいろいろ変更してみた。ところが、発振するぎりぎりのところまでレベルを落としても、側帯波は依然として残ったままで変わらない。これはおかしい。この間、費やした時間は二日。

私のような人間は、追い詰められないと物事の本質に近づくことができない。万事休すというときに、ふと思いついたのが水晶発振子と増幅回路を結ぶリード線のことである。

リード線の処理の仕方、特に二本のリード線を近づけるとQが極端にブロードになって発振器として機能しなくなることは、すでに書いた。それでこれまでは、ふたつのリード線の間隔をできるだけ開けるように配置して対応してきた。
それからもう一つ気にかかっていた現象がある。増幅基板を固定しようとして発振子を収納したアルミボックスとの間隔を数mm程度まで近づけようとすると、Qがブロードになってしまうこと。これも、基板を固定せずにボックスとの間隔をあけることで現象を回避した。下の写真がそれ。

ここに何か重大な見落としがあるのではないか。結論から言おう。発振子を収納しているアルミボックスのグランドの取り方に問題があった。これまでは、増幅基板とは別ルートでシャーシにアースとして落としていた。DCを含むオーディオ周波数領域ではこれでよい。しかし高周波という視点から見るとまったく不適切で、増幅基板から見ればグランドが浮いているのと等価である。その結果、アルミボックスと基板の間に寄生容量が発生し、これがなにか悪さをしているのではないか。新たに立てた仮説がこれ。

対策は簡単。発振子のグランドのリード線を最短でアルミボックスに接続し、そこから増幅基板のグランドを最短で結ぶ。対策前は、アルミボックスに落とさずに、発振子と増幅基板を直接結んでいた。
写真の説明  銅箔がグランド線。ボックスにあけた穴は、中に入れがグリーンカーボランダムがこぼれてこないようガラステープでふさいでいる。

結果は次の欄で。

試作12号 その6(水晶発振子 4個シリーズ接続)2020年11月16日 13時38分55秒

対策後の出力をしっかり観測しておく。
まずはオシロスコープの波形。
回路は、11月12日に掲載したものと同じ。それなのに出力電圧が大きくなっている。はっきりした理由は不明だが、実装の違いによる影響と推測される。恐るべし高周波.

続いて発振周波数の近傍に分布するスプリアスの様子。詳しい人ならばいろいろと意見を言うことができるだろう。

続いて高調波の様子。前回、同じ回路で測定したときは二次までしか観測されなかったのに、今回は三次まで写っている。ただ、高調波の観測は難しくて、測定条件を変えるところころ変化する。このあたりのノウハウはまだよくわかっていない。
ちなみに高調波のレベルは以下の通り。

1次   +0.6dBm
2次   -47dBm
3次   -54dBm

前回ほどには低ひずみ率とはいかなかった。調整中、バリコンをちょっとでも動かすとどんどん変わってしまう。低ひずみ率であれば低位相雑音であるのか、そこあたりの相関まではつかめていない。そもそも調整があまりにもクリティカルなので、安定した発振状態を確保するのが精一杯であった。

続いてSpanが1KHzのときの波形。位相雑音が小さくなれば、中心周波数近傍のピークは鋭くなるはず。しかし使っているスペアナ(HP 8560A)の測定限界で、これ以上は観測不能である。

もっとも知りたかったのは、中心周波数の左右にあった側帯波が消えているかどうかである。ご覧の通りほとんど見えなくなっている。対策が功を奏し、仮説の正しかったことが証明された。ただし完全に消えたかと言えば微妙である。中心周波数から左右100Hzのところに若干残っているように見える。これを完全に消すには実装方法をさらに追い込む必要がある。ただ、私にはこのあたりが限界。

最後に、実装状態。
当初、増幅基板をアルミボックスに固定する予定であったが、まだ実施していない。前回までは、ポリエステル布を間に挟んで緩衝材としたのを、今回はαゲルに置き換えた。
おもしろいことに、対策前はアルミボックスに基板を近づけると動作不良となったのが、対策後はアルミボックスから基板を離すと発振が停止するようになった。Qがブロードにはならないので、対策の方向性は合っていると思われる。

調整について。
前述の通り、調整は非常にクリティカルで、バリコンをもっと小さな容量にしないとこれ以上追い込むことは困難であろう。

予想していたことではあるが寄生容量の影響を非常に受けやすくなった。スペアナで観測しながらシャーシのフタをすると、発振周波数のピークが移動するので、再度ピークのスキャンをかけなければならない。

驚いたのは、バリコンにセラミック製の調整用ドライバーを近づけてもドリフトしてしまったこと。これにはまいった。ドライバーを離したときの状態を予測しながら調整するのだから、ほとんど勘の世界である。

根本的な対策としては、ゼロから実装方法を見直すしかない。そこに待っているのは、HPのスペアナの構造に見るような、部品や基板、そしてケーブルさえも非常にリジッドに固定されて、厳しくシールドされている、「超」の字がつくような世界であろう。

そんなわけで、この発振器をつくるにはオシロスコープだけでは難しく、スペアナは必須。それだけでハードルはかなり高くなる。追試する方がいるとは思えない。
ただ、発振器はプロの世界と思ってこれまで敬遠していたけれど、アマチュアでもやる気さえあればここまでできるということを知ったことは非常に有意義であった。

壊れている中古のスペアナを買ったときは、まるで清水の舞台から飛び降りる気持ちであったが、今は買って本当によかったと思う。
それからもう一つ、優れた性能を有するLaptechの水晶発振子を個人的に購入できたことも幸運だった。これを紹介してくださったdiyAudioのandrea_moriさんに感謝したい。