6DJ8 ラインアンプVer.1.02009年10月19日 13時12分36秒

 ここ数週間、ラインアンプの実験を繰り返していた。結論から言うと、トランス(タムラTF-3)は使わないことになった。これは推測なのだが、このトランスはプッシュプルで電流を流すことを想定していないのかもしれない。どうしても出力波形がひずんでしまった。トランスが悪いのではなく、私が未熟であっただけのことである。将来捲土重来を喫して活躍の場を与えたいと願っている。

 さて、ではどのような構成になったのか。回路図は後で掲載するとして、初段はMOS-FET入力でドレイン接地。ソース出力は6DJ8のカソード側につながる。ここはいわゆる交差差動結合(クロスカップリング)という手法が使われている。プレートはごく普通の抵抗負荷。次段はやはりMOS-FETを使い、ソースフォロワー出力となっている。電源はここにもMOS-FETを使ってNO-NFBの定電源回路とする。以上である。

 もちろん私のオリジナルではない。CounterpointのSA-5000とSONIC FrontiersのLine-2を参考にさせていただき、細部を私なりにない知恵で工夫した回路である。いきなりこの回路を最初から作った訳ではない。他にもいろいろな回路を試して音を聴いてみた結果である。

 それで、肝心の音はどうであったか。システム全体が全く別物になってしまった。これまでは細部のディテールは見えるのだが、音が奥に引っ込んでいた。音量を上げてもこの性質は変わらない。全体のエネルギーが高い周波数の方に偏っていて、時間とともに聞いていて疲れを感じた。
 ところがこのラインアンプを入れると、全体の重心が下がる。例えて言えば、今までが軽自動車で細い路地を走り回っていたのが、今度は大型トレーラーで高速道路を突っ走る感じだ。変な言い方だが、音がぎっしりと詰まっていて重量感がある。

 知り合いの方でフェラーリを運転している方がいる。この車のエンジン音は、車にど素人の私でもすぐに判別できる。まるで戦車がやってきたかというくらいだ。このラインアンプの音もそんな印象を受ける。

 昨夜完成したばかりだから、まだまだ音が固いところがある。それでもそのすばらしい音に聞き惚れてしまった。出力段のMOS-FETのバイアス電圧用にOSコンを使っている。経験上この部品は長いエージング時間を要する。これからじっくりと育てていこう。

ラインアンプVer.1.0 内部その12009年10月19日 13時39分53秒

 まずは初段の基板と6DJ8ソケット周りから。ユニバーサル基板は裏表を反転させて使っている。隠れて見えないが、下の方に抵抗類を実装している。

 ソケットにある大型抵抗はスケルトンの200Ω。込み入った場所にあるので、念のためスリーブは外さないでそのままにしている。

ラインアンプVer.1.0 内部その22009年10月19日 13時43分48秒

 続いて終段部の基板の様子。MOS-FET(IRF9610)がずらりと並んでいる。裏には双信のコンデンサが6個とスケルトン抵抗8個が実装されている。有り合わせの部品を使ったので、所望の値にするため、シリーズ接続しなければならなかった。それもあってかなり実装密度が高くなっている。抵抗類にVishayを使ったら、もう少しコンパクトになるのだろうが。

 半固定抵抗が4個見える。これは終段M0S-FETのバイアス電圧設定用である。

 設計当初、出力電圧のドリフトを心配した。ところが、バランス出力であったことが幸いして、電源ONのときもOFFのときも、まったく音が出ない。まさに無音である。またパワーアンプの出力電圧を測定しても、オフセットはせいぜい30mV程度の電圧しか出ていない。これで安心して使えることがわかった。
 しかし、他のアンプを使うのであれば、もちろん保護回路を入れるべきであろう。

 Aleph-Xアンプを作った当初は、このアンプの音はこんなものかなと、少し期待に届かなかったのが正直な気持ちであった。もっとエネルギーにあふれた音が出るのではと想像していたからである。しかし、ラインアンプを作って初めて納得した。良いパワーアンプであればあるほど、自己を主張したりはしない。前段から与えられたものを粛々とスピーカーに伝えていく役割に徹する。前が駄目なら、それなりの音しか出さない。当然のことだ。改めてAleph-Xの底力に驚嘆した。このアンプの実力を発揮させるためには、きちんとそれなりのレベルのものをつないでやらなければならない。またしても当たり前の結論を得ることになった。

トランジスタの音2009年10月19日 14時05分09秒

 今回作ったラインアンプは能動素子として真空管とMOS-FETしか使っていない。トランジスタは意識的に使わないようにした。Counterpointのマイケル・エリオット氏はトランジスタの音を"harsh"と表現していたように記憶している。「刺々(とげとげ)しい」というような意味だ。だからトランジスタは絶対に使いたくないということらしい。

 私もなんとなくトランジスタに対してはそんな印象を持っている。どこか冷たくて、音楽の表情をそぐような気がしてならない。トランジスタの音を出したくないがために、I/Vコンバーターではわざわざ「またリントン」回路を採用したほどである。

 その点、今回多用したMOS-FET(IRF9610)は非常に癖がなく、どこにでも使いたいと思うほど気に入った素子である。音楽の表情を邪魔したり、色付けしたりすることがきわめて少ない。これが一個百円もしないというのだから、本当に世の中はわからない。それに比べて真空管の値段は二桁は違う。ため息が出てしまう。