GaN Single End Power Amp その102024年03月05日 18時39分46秒

GaN(窒化ガリウム)トランジスタを終段に使ったパワーアンプ、その後いくつか手を入れて、ますます素晴らしい音に変貌してきた。まずは増幅部の回路図を。
回路の説明
調整箇所は次の二カ所
VR1: 初段C3mのプレート電圧調整
VR2: 終段GS66502Bのアイドリング電流調整

当初、プレート電圧によって歪率は大きく変化するだろうと予想していた。ところが実際にVp=30〜80Vの間で様子を見てみると、ほとんど変化しない。これにはしょうしょう驚いた。
ただし、Vp=100Vを超えた場合もそうであるかどうかは不明。

左チャンネルと右チャンネルとで歪率を比較すると結構な差がある。これはC3mの個体差によるものであろう。

続いて電源部。高電圧部の平滑回路にはチョークを入れた。
(トラブルシューティング)
いつものように、ここに至るまで艱難辛苦(おおげさ)がいくつかあった。
1)終段の発振
VR2を回して徐々にアイドリング電流を増やしていくと、ある時点から発振を始めた。発振は12秒間隔で始まり、数秒間大暴れした後また静かになるという繰り返し。当初、増幅素子を疑ったり、配線を疑ったがすべてシロ。
最終的にGS66502Bのドレイン端子近傍にバイパスコンデンサC20をつけたら、もののみごとに発振はおさまった。ソースフォロワのドレインはコンデンサでインピーダンスを下げるというのが鉄則。これを忘れていた。
ついでにC19も付加してLND150にも対策を行った。
わかってみればまことに馬鹿馬鹿しいことであるが、この現象に悩むこと数週間。一時は止めようかと思ったことも。諦めなくてよかった。
ついでに言えば、バイパスコンデンサのことに気がついたのは、たまたまドレイン付近に指を触れたら発振がおさまったことがきっかけだった。
発振の原因を探るとき、いろいろなところを感電に注意しながら触れてみるというのは、意外な発見をもたらすことがある。

2)C3mの第二グリッド電圧の固定方法
当初、定石通りに+140Vを抵抗で分割してG2の電圧を与えていた。
そこへたまたまコメント欄にコメントが入り、私の過去の記事で定電圧ではなく定電流でG2電圧を与える方法について書いてあったのに言及してくださった。こちらはすっかり忘れていたが、そう言えばこんな方法もあるのかと逆に教えられて、さっそくLND150を使った定電流回路に入れ換えた。実装面から言えば場所を取らずコンパクト、まことによろしい。音については、他の変更と一緒に行ったのでなんとも言えないが、すくなくとも悪いところは一切ない。

3)G2電圧のバイパスコンデンサ
当初、C13には手持ちにあった一般的な電解コンデンサ100uFを使っていた。高域が若干弱く聞こえる原因はC11の値だけではなく、このコンデンサの影響だろうと推測。そこでC14を追加した。

4)初段C3mの発振
片チャンネルは安定だったのが、別チャンネルが発振してしまった。発振周波数はおよそ400KHz。もちろん配線ミスはない。ああでもないこうでもないということで、結局C11を入れたら見事に安定になった。当初5pFとして高域カット周波数を35KHzとしていたが、音を聴いてみると若干高域がおとなしく感じる。そこで3pFに変更すると、これが一変して余韻が細やかに広がってすばらしい。


(残された課題)
・C3mのヒーターは終段の電源からもらっていて、電圧を合わせるためにR7, R8を挿入しているが、20Vの規定電圧に若干足りなくて少し不満がある。ここは定電流駆動にしてみたい。

・R14は2N3634のベース電流によって電圧がかかるようになっていて、アイドリング電流設定の役割も兼ねている。なのでどうしても高抵抗値になりVARが使えない。ここは手持ちの進抵抗とした。R14は音に大きな影響があるはず。これが気がかりで、将来なんとかしたい。

・残留ノイズは0.5mVあって、ダブルウーファーではややハム音が聞こえる。またシールドがないために、チッチというような静電誘導によるノイズも耳障りなときがある。ここあたりも対策が必要であろう。

(総合評価)
このアンプは300Bシングルアンプに追いつくことを目標として設計を始めた。当初は終段にもゲインをもたせたソース接地で攻めたのだが、どうしても音が腰高で満足できない。
今の私の技量ではソース接地でよい結果を得ることは難しいと判断し、ドレイン接地(ソースフォロワ)とした。実を言えばドレイン接地は以前も試しことがあって、そのときは平凡な音しか出ず、がっかりした記憶がある。何も手を打たなければ、今回も失敗する可能性がある。

そこで300Bシングルアンプに範をとって初段をC3mの五結とした。これが決め手となった。C3mの五結はすばらしい。独特の濃厚で重心の低い音はここから出ているに違いない。 なので300Bシングルアンプとよく音の傾向がよく似ている。
もちろんそれだけではない。終段GaN素子は2N3634のエミッタフォロワでドライブしたことも効いているに違いない。

純粋の真空管派の方がご覧になれば、半導体を混ぜたこんな回路は歯牙にもかけないだろう。けれども真空管と半導体の両方のよいところをうまく活かせば、決して純真空管アンプに引けを取らないアンプを造ることができるのではないか。いろいろ意見はあるかもしれないが、とにかくそういう可能性を切り開いていきたいと願っている。

13D2+2N3634 バッファーアンプ2024年01月11日 20時02分58秒

やっとバッファーアンプの回路がフィクスした。実を言えば、ここに至るまで試行錯誤の連続だった。

最初のバージョンで問題になったのは、入力端子に発生する電圧。このまま電子ボリュームMUSE72323に直結すると、ボリュームを変化させるたびにノイズが発生する。MUSES72323のデータシートにはきちんとこんな場合はCを入れてDCをカットするようにと書かれている。なので使い方の問題なのだが、なんとかこのCを入れない方法はないかと考えた。

DC電圧が発生するのは2N3634のベース電流が流れるため。この問題を解決するために回路を工夫した。それがこれ。
13D2のカソードと2N3634のベースをつないでしまう。少し複雑になることに目をつぶれば、ベース電流の影響から逃れることができる巧妙な回路である(とうぬぼれた)。早速組み立てて音を聴いてみた。

結論。だめだった。なぜかわからないが、最初のバージョンに比べてどこかおとなしくて、迫力が後退する。複雑にした意味が全くない。即没。

次に考えたのが、ベース電流をキャンセルできないかということ。トランジスタ入力のOPアンプの一部ではこの方法が用いられている。それでカレントミラー回路を入れ込んでみた。ブレッドボードにトランジスタ部だけ組み立てて試験してみるとうまく動くように見える。それで本体を組み立てみた。
結果。音はきちんと出るのだが、電源オフ時に発振してしまう。最初、発振しやすいと言われるカソードフォロワー、エミッタフォロワーが怪しいと当たりをつけ、グリットやベースに抵抗を挿入してみたが、全く効果無し。電源回路から回り込むノイズもひどく、ハム太郎状態。おまけにボリューム操作時にノイズも出る。それで回路図にCが入っているのはこのため。これも没になった。

そんなこんなでいろいろ回り道した結果、結局もとの回路に戻った。無理せず素直にCを入れる。こうするとマイナス電源がいらなくなるという大きなメリットが生まれ、電源から回り込むノイズにも悩まなくて済む。
回路図はまことにシンプル。
電源部。
本機の外観。
そして裏面の様子。
シャーシがやや大きくて、全体に間延びした配置になっている。ただ試験をするときには作業がしやすくて助かる。
半田付けが終わったのは1月9日だからまだ音は落ち着いておらず、やや硬い。じっくりと熟成を待つ。

この回路、一つだけ欠点がある。出力電圧がおよそ6V程度あるので後ろにつながるパワーアンプは必ずDCカットすること。300Bシングルアンプはトランス受けなのでその点は問題ない。

そしてもう一つの課題。実はこちらの方がやや深刻なのだが、出力のホットHとコールドCの電圧差がおよそ500mV程度発生する。今はこれを無視してトランスで受けているけれど、あまりよいことではない。これをどう解消するか。今後の課題となった。

13D2 バッファー アンプ(改訂)2023年12月13日 21時49分48秒

前回のバッファーアンプ、音は良かったのだがひとつだけ大きな欠点があった。
MUSES72323は、入力も出力もDC成分があるものをつないではならない。DC成分があると音量切り替え時にノイズが発生してしまうから。なのでそういう場合はコンデンサを入れてDCをカットしなければならない.

前回のバッファ、予想はされたことではあったけれど、やはりノイズが出てしまった。音量調整しなければノイズは聞こえないといっても、使ってみるとわかるがこれが大きなストレスとなる。
ということで、対策をすることにした。

途中経過を省略して、まず回路図から。
続いて電源部も前回の絵には一部ミスがあったので改めて載せる。
改訂の要点は一つ。2N3634単独使用から、2SA726とのダーリントン接続にしたこと。
その理由。2N3634のhfeは50前後。Ic=5mAだからIb=100uAとなる。ベースに20KΩの抵抗がつながればVb=2Vとなる。これがMUSES72323にかかるDC成分となりノイズを発生させる原因となった。
(補足:20KΩはMUSES72323のデータシートに記載された入力抵抗値。2SA726のベースにつながれている100KΩは入力オープン時にグリッドがオープンになることを防ぐために入れてあるものなので、計算には20KΩを使うのが正しい)

ならばIbを小さくすればこの現象を回避できることになる。ダーリントン接続ならば、2SA726のhfe=250とすればVb=8mV程度になる計算。実測ではこれが2mVとなった。実際にMUSES72323につないでみると、まったくノイズは出ない。
欠点としては、半導体の使用数が増えたこと。
いまのところ、ダーリントン接続にする前と比べて大きな変化はないと感じているがもう少し聴き込んでみたい。

最後に実装の様子。 ダーリントン接続されたトランジスタ群。
そしてシャーシ裏の様子。真ん中に銅箔で巻かれたフィルムコンデンサが四本並んでいる(DCカット用)。これは現在撤去している。
最後に出力電圧について。回路図を見ておわかりのとおり、出力電圧は+1.2Vとなっていてゼロではない。わがシステムでは、パワーアンプがすべてトランスによるバランス受けなのでDC成分があっても問題とはならない。
ホット・コールド間の電位差も微小で数mV以下に納まっているし、ドリフトもほとんどない。半導体の選別をきちんとしたこともそうだが、一番は13D2の双極が非常によくそろっているおかげである。

13D2 バッファー アンプ2023年12月04日 20時40分41秒

MUSES72323電子ボリューム。
いつものことであるが、聴いているうちに不満が募ってきた。どこか堅くて、望むような音楽の楽しさが遠のいてもどかしい。MUSES72323が悪いのではない。バッファー無しでパワーアンプと直結したとき、ゲインは小さいけれど素晴らしい素質があることを感じていた。

ということはMUSES72323の出力につながれているバッファーが怪しくなる。これまMOS-FET DN2540によるソースフォロワとしていた。大幅に手を加えることなく、比較的容易に実現できるという理由で採用しただけで、音を聴いて判断したわけではなかった。ようは手を抜いたということで、やっぱりこういうところはきちんと詰めておかなければならない。

それでどうするか、である。
やはりきちんと真空管で実現したい。しかし、単なるカソードフォロワでは、200Ωのインピーダンスをバランス出力でドライブできない。もちろん音は出てくるだろうが、こんな場合大抵どこか無理した音しか出てこない。

次なるアイデアは、真空管とトランジスタの組み合わせ。これならば完全にドライブできる。ただ、半導体はなるべく使わないという主旨に反する。しかし他によい案が浮かばない。結局これで行くことにした。

まずはバッファの回路図から。
続いて電源部。ひさしぶりにWE412Aを使う。この真空管には是非頑張って欲しい。
半導体を使わざるを得ないとしても、できるだけ影響を排除したいという身勝手な目標をかかげ、部品箱をあさったら2N3634が見つかった。メタルキャンタイプで、驚いたことにいまでも生産されていて、Mouserでは1,400円ほどの価格である。おまけに金足という豪華な造り。いったいどんな用途に使われるのだろうか。内部を開けてみたわけではないが、相当精密につくられていることは予想できる。これを13D2の相手方に選んだ.。
2N3634の姿。
シャーシは以前ラインアンプとして使っていたものを流用。そのときは中華製のテフロンソケットを我慢して使っていたが、信頼性は皆無。MT管用などは接触不良ばかり起こすのですぐにゴミ箱に捨てたほど。そこで、これを機に念願の山本音響工芸のテフロンソケットを使用することにした。ただソケット径が違うので穴は開け直し。これもまた楽し。
配線途中の様子。
そして昨夜完成。そこで終了となって、きょう試運転開始。すでに各ブロックの動作試験は済んでいるので問題なく音が出てきた。
正面の姿。
さて、音はどうなったか。
エージングはこれから。しかし今の段階で完全に勝負がついたとわかる。ますます空間が広くなり、そこへ中身がぎっしりと詰まった濃密な音楽が充満する。加えて弦のなんと美しいこと。生きていることは素晴らしいと思える瞬間。しばし至福のときを過ごす。

ただこれは今の時点の感想で、エージングが進んだら平凡な音になるということは何度も経験したので、最終判断はしばらくしてからにする。

遅延起動回路2023年11月26日 21時10分52秒

PSVANE WE300B SEアンプのB電源について。ダイオード整流なので、このままではフィラメントがまだ冷たいうちにプレートに高圧がかかり、まことに具合が悪い。ほんらいならここはWE274Bを使うべきなのだろうが、そうも事情が許さない。

そこで遅延起動回路が必要となる。
回路図は以下のとおり。
GaNをそのままスイッチとして使うことはできない。ちょっと工夫が必要でインバーテッド・ダーリントン接続すると、これが可能となる.

タイマー機能はPIC12F675で実現。およそ70秒でONとなる。立ち上がるまでの間、青色LEDが点滅するようにした。555タイマーという手も考えたが、部品が少なくて済むのといろいろな機能を盛り込むことができので、一度使い始めると病みつきになる。

実装の様子。
動作させてみるとON/OFF時には一切無音で、まことに気持ちがよい。