C3g+300B SE アンプ その後2022年07月27日 17時32分12秒

あれから聞き込んでいくうちに最初の感動は薄れ、じょじょに違和感に変わっていった。
某氏は、高帰還アンプを「緊張感に満ちた」と表現されていたがたしかにそう感じる。しかし「二つよいことはない」と言うように、ものごとには両面がある。見方を変えれば、どこか自由さを欠いてくつろげない気分になる。

これはいけない。音楽は文字通り楽しむためにあるものであって、人間が音楽の奴隷になるのではない。私たちはもっと自由であるべきではないのか。

高帰還アンプは止めた.
そのために回路をどう修正するか。そもそもopen gainが高すぎるのだから、これを低くするのが一番早い。
結論から言えば、C3gのカソード・パスコン470uFを削除した。対策前後のgain比較すると次のようになる。

      	    open	    closed	  NFB
Cあり	    46.6dB	   30.5dB	 16.1dB
Cなし	    30.7dB	    26.0dB	  4.7dB

その結果。
期待通り、音が解き放たれたように変化し、実に楽しい。
このこから重要なことを学んだ。
「アンプには適正なオープンゲインがあり、NFBも適正な量がある。」

ここで大切なのはNFBはダンピングファクタにも関係することである。
使用するスピーカが変われば適切なNFBも変わる。なので、世間には「低負帰還」vs「高負帰還」の戦いがあるけれど、アンプだけ論じても両者は永遠に和解できないことになる。

失敗してまたあたらしいことを学んだ。

最後に姿を拝見
入力トランス付近の様子。C3gのグリッドに続くワイアを銅箔でシールドした様子を示す。

C3g+300B SE 高帰還アンプ2022年07月11日 16時27分14秒

ブログはしばらくお休みしていたのは、別に体調が悪かったわけではない。いつものように日々の時間が流れていた。
そろそろ書きたいことがたまってきてたので、また書き始めよう。

手始めは、300Bアンプである。前にも書いたけれど、バイポーラトランジスタを使うと、どうしてもその「つるっとした」音が気になっていた。真空管の良さを引き出すためには、バイポーラトランジスタは使ってはならないと思い始めた。

問題は、バランス入力を取り扱いである。潔くコールド側の信号を捨ててホット信号だけを入力とするという手もあるが、どうも気にくわない。どうしようかと思っていたら、ちょうどそのときタムラのTD-1がロハで手に入った(なぜ入手できたかはまた別のところで書くかもしれない)。これで一歩前進した。

初段はC3gとした。一部ではドイツ製WE310Aとも言われているようだが、そういう噂は眉につばをつけて聞いた方が良い。とにかく、どんな音が出てくるのか興味があった。

元ネタの回路はラジオ技術に掲載されていたU家先生の記事。ただ先生は高gm管はゲインが高くなりすぎるので使わない方がよいとの意見だった。二段目のカソードフォロワー部はGaNで置き換えた。
いろいろ紆余曲折を経てフィクスした回路図は以下のとおり。まずは増幅部から。
そして電源部。ここは前回との変更はない。
できあがりの概観。
電源部。整流管を使わずにGaN素子とするとどうしても出力電圧が高くなる。DALEの270Ω抵抗で調整する。ただし、発熱はかなりあるのでアルミ板で放熱させた。(写真は対策前)
続いて増幅部の様子。フィルムコンが場所を占有する。
初段の細かな部品は基板にまとめた。その右隣にソースフォロワとして使っているGaN素子を配した。

歪率特性。高帰還アンプだけあって0.2W以下では歪率は0.1%を下回る。おもしろいことにハードディストーション特性というわけでもなく、出力が高くなるにつれ歪率も徐々に多くなる。
周波数ごとの特性もそろっていてうまく動作していると判断できる。
次に周波数特性。
低い周波数域の盛り上がりは、パラフィードCと出力トランスによるものであろう。支障を感じないのでこのままとする。
高域については、出力トランスの二次側からNFBをかけていないので、出力トランスの特性がそのまま反映される。
広帯域アンプを見慣れた目には、いかにも狭帯域のようにも見えるかもしれない。しかし音を聞くとまったくそんなことはなく、実に晴れ晴れして気持ちがよい。
【音の特徴】
完成したアンプがどんな音を出すのか、いつものことだが期待と不安が交錯する。
バイポーラトランジスタを使わなかった効果はすぐにわかる。抑圧感がなく、細部もそのまま聞こえてくる。GaNと真空管の組み合わせがどうなるかという点についても、まったく杞憂に終わった。
出てきた音を聞いて最初に感じた印象は、かなり強烈だった。シングルアンプというと、悪くいえば「ひ弱な」、よく言えば「さわやかな」、また高帰還アンプというと「失われた開放感」という先入観があった。ところがこのアンプ、これらをことごとくひっくり返し、実に音に力があって質量さえ感じる。一つ一つの音がぐいぐいと迫ってくるのには驚いた。

バースタインが亡くなる数年前だったと思うが、当地でロンドン交響楽団を指揮したのを聴いたことがあった。オーケストラから発する音の粒子がからだを直撃し、肌がブルブルと振動した記憶が鮮烈に残っている。あのときの感覚がよみがえった。

このアンプの音の特徴は三つにまとめられる。
まず一つ目。
これまで高帰還アンプには懐疑的で、無帰還アンプが優れていると思い込んでいた。しかしきちんと設計さえすれば、高帰還アンプの独特の世界を獲得できることを知った。今後この路線を追いかけることになるだろう。

それから二つ目。
このアンプの音を特徴付けているのはやはり初段のC3gであろう。高い周波数域に独特の輝きというか、エネルギーを感じる。それがいやらしくならないように周辺の部品で調整するのが肝かもしれない。

三つ目。
こんな表現はおかしいかもしれないが、どんな音も均等に出てくる。低い周波数域にエネルギーが偏っているとか、その反対であるとか、そんなことはなくて、全帯域が平等に扱われていて差別がない。ダンピングファクターは測定しいないけれど、かなり高い印象。これまで、ともすれば暴れやすくて音階不明になりがちだったダブルウーファーを完全にアンプの支配下に置き、膨らみもせず、さりとてスカスカにもならず、録音された状態に近い(と推察される)音が出てくる。

しばらくこのアンプの虜になりそうだ。

【トラブルシューティング】
いつものことだが、全部うまくいったわけではない。いくつかトラブルがあった。一つ目はこれはトラブルというわけではなく、C3gのスクリーングリッドの電圧が、最初に設計した抵抗値ではうまく調整できなかったこと。これは抵抗を交換して対応。

もっとも困ったのが、残留ノイズ。Lチャンネルは組み上がった状態そのままで、0.24mVとなった。これに気をよくしてRチャンネルを測定したらどんなことをしても1mVを超えてしまう。高能率のスピーカーでは、耳について落ち着いて聞いていられない。

最初は発振しているのかと思ったが、まったくはずれ。次にアース配線に問題があるのかと推測したけれど、これもはずれ。そもそもLチャンネルとRチャンネルとでは同じ配線である。
次に真空管を疑ったがこれもシロ。こうなると完全に行き詰まってしまった。

それが配線を確認するために増幅部を90度横に倒したときのことである。スーッと雑音電圧が下がって0.5mVになった。「おや?」ということで、これで糸口が見つかった。結論から言えば、高インピーダンス回路であるために、誘導ノイズを拾っていたことによると判断。早速、適当なアルミ板を増幅部筐体(木製)の下に敷いてみたら「あら不思議」、雑音電圧が0.6mVとなった。これで実用レベルとなった。
高インピーダンス回路はきちんとシールドをしないといけない。わかってはいたけれど、わかるまでだいぶ回り道をしてしまった。

整流管からGaNダイオードに換装2022年03月29日 20時24分57秒

300Bアンプの音は整流管が大きく影響することは、衆目の一致するところ。理想はWE274A/Bであることにも異論はない。しかしあまりにも高価で庶民には手が出ない。まずはということでPSVANE 274Bを手に入れて音を聞いてみると、先達の言うことが身にしみてくる。

このアンプ、素質はすばらしいと思うのだが、どうしても粗野で荒削り、空間にホコリが舞っているようでいがらっぽく、整流管が足を引っ張っているとしか思えない。

そこで、GaN Transistorをダイオード接続して整流管と入れ換える計画を立てた。真っ先に検討しなければならないのが耐圧。電源トランスの二次電圧が400Vacで、その3倍の耐圧が必要だ。GaN TransistorのVdsは最大650Vだから、そのままでは耐圧不足なので二個直列接続して耐圧を稼ぐ。

変換基板とGaN Transitorが届き、簡易リフローで半田付けもうまくできることが確認できた。役者がそろったところで、300Bシングルアンプに実装する。今回採用したのはGS0650041L。単価が劇的に安くなり、気軽に使えるようになったのがうれしい。

ほんとうはまな板シャーシの内側に配置したかったのだが、残念ながらスペースがない。整流管ソケットのすぐそばに木ネジで固定した。裸のままでは危険なので、黄色に見えるカプトン(ポリイミド)テープで絶縁処置をした。写真では2枚の変換基板が見えているけれど、それぞれ2枚重ねになっているので合計4枚である。
まな板を使うと、こういうとき気軽に改造できるところがよい。
回路図は次のようになる。
変更箇所は、B電源の整流部だけでほかはこれまでと変わらない。
さて音はどうなったか。
最初の数時間は、ひどい音だった。しかしそこを過ぎていくと、徐々に本領を発揮し始め、そのすばらしさにしばし聞き惚れてしまった。これまでの整流管がいかに足を引っ張っていたかがよくわかる。もっともそれはPSVANEが悪いのではなく、安いものを使ってしまった私の不覚である。

GaNダイオードがすばらしい成果を上げるだろうことは予想していた。しかしここまでとは少々驚いた。

お代を云々するのは野暮かもしれないが、一応書いておく。数字は2チャンネル分である。
GS0650041L 単価2.97ドル × 8 =23.76ドル
変換基板 単価.0236ドル× 8 =1.888ドル
合計 25.648ドル
円安になった今のレートで計算すれば、3,180円。
このような素晴らしい音がこの値段で実現できるとは。この落差がなんともすばらしい。もう整流管の選択で悩むことはない。

Eagle CADで基板を設計する2022年01月31日 11時29分53秒

このあいだまでMPLAB X IDEでPICのソフトを書いていたと思ったら、次はEagleに取りかかる。
このソフトを最後に使ってから数年経っているので、例によって記憶の発掘作業から始まる。

最新のバージョンをダウンロードすると、操作画面やアイコンが変わっていて、まずはそこで大いにつまずく。Google先生やYouTubeのお世話になりながら徐々に習熟。簡単な基板であったがこれを完成させるのに1週間かかった。

ターゲットはGaN SystemsのGS-065-004-1-L。
(画像はGaN Systemsより引用)

これまで扱ってきたのとは違い、PDFNパッケージとなっているので手動で半田付けはできない。クリームはんだを使ったリフローが必要となり、そのことはまた後で考えよう。

基板外形は、GS61004Bと同じ。
角を丸くする方法は、すんなり思い出すことができた。
フットプリントはデータシートを見ながら自分で作ってライブラリに登録する。基板作成の半分はこのライブラリ登録作業にかかると思った方がよい。

あれやこれや回り道をしながら完成したのがこれ。

次なる作業は基板メーカーの選択。前回はSEEED Studioにお願いしたのだが、現在のところアルミ基板は取り扱い停止状態。そこでほかのメーカーがないか検索してみると、あるある、雨後の筍のようによりどりみどりで驚いた。
今回はJLCPCBに発注。基板枚数は50枚で、送料を入れても2000円以下。値段にびっくり。日本の試作基板請負メーカーなら、これより一桁高くなる。安いのはうれしいのだが、日本の技術力の地盤地下を感じてちょっと複雑。

だれもがあまりの安さに詐欺ではと疑うだろう。ところが勇気ある先駆者がおられて、大丈夫との報告をしてくださっている。
まずはできあがりを待つことにする。

300Bシングルエンド アンプ 結果は2022年01月24日 19時31分01秒

まずは300Bのフィラメントを定電流点火した効果から。
VP-7723Aで残留雑音を測定する。8Ω単純負荷時。
L-ch : 0.42mVrms
R-ch : 0.26mVrms

交流点火の時はおよそ4mVrmsはあったから劇的な改善で、ハム音に悩まされたことが遠い過去のように感じる。
L-chがR-chに比べて大きいのは整流管のばらつきによるものと推定する。

実を言うと、通電当初L-chから不定期にバシッという放電しているようなノイズが出て肝を冷やした。よく見ると、どうも整流管からのようで、ノイズもかなり大きい。そのまま通電して数日したらノイズも小さくなり、放電現象もなくなった。もともとPSVANE 274Bはそのような造りなのだろう。

電源部が完成してからおよそ1週間、エージングを重ね、音もだいぶ落ち着いてきた。さすが出力段が真空管であることの意義は大きく、前にせり出すような力強い音でありながら、なおかつ音楽性に富んでいて、聴いていて心が躍り出す。
世の人々が300Bアンプを称揚する気持ちはよく理解できる。

整列した300Bシングルエンドアンプ。ST管が横並びに4本並ぶとなかなか壮観である。

後日談
そこで終われば人はおおくのことを悩むことなく、幸せに過ごせただろう。どうしても先に作ったGaNシングルエンド・アンプと比較したくなる。聴いてみて頭を抱えた。
GaNシングルエンドアンプがすばらしくよいのである。音に質量があり、前にせり出していながら、非常に落ち着いていて包み込むような優しさに富んでいる。もちろん人の心を揺さぶる音楽が聴こえる。

それに比べて300Bシングルエンドアンプは、決して悪いアンプではないのだが、雑味が混じり、がさがさしていて洗練されていない印象がある。
この違いはどこから生じるのか考えてみたが、整流管がまだエージングが十分ではないのかもしれない。

ここで次なる課題が浮かび上がる。
おそらく300Bアンプの実力を発揮させるにはWE274Bが必要なのだろう。しかしそのことを享受できるのは、懐に余裕のあるごく限られた人々であって、なにか釈然としない。世界は貧富によらず血筋によらず、だれにでも機会が公平に与えられることを目指してきたのではないか.

そこで、すでにGaNダイオードがすばらしい結果を出しているのだから、これを300Bアンプに応用できないかということになる。そこで検討しなければならないのは耐圧である。

GaN素子は最大で650Vに規定されている。300Bアンプの電源トランスの電圧は約480V。要求される耐圧はこれの3倍だから、1500V程度となる。全く足りない。
唯一の解決策は直列接続することだが、果たしてそれでうまくいくのかは実験してみないとわからない。
このテーマについては、また進展があったら取り上げることにする。