C3g+300B SE 高帰還アンプ2022年07月11日 16時27分14秒

ブログはしばらくお休みしていたのは、別に体調が悪かったわけではない。いつものように日々の時間が流れていた。
そろそろ書きたいことがたまってきてたので、また書き始めよう。

手始めは、300Bアンプである。前にも書いたけれど、バイポーラトランジスタを使うと、どうしてもその「つるっとした」音が気になっていた。真空管の良さを引き出すためには、バイポーラトランジスタは使ってはならないと思い始めた。

問題は、バランス入力を取り扱いである。潔くコールド側の信号を捨ててホット信号だけを入力とするという手もあるが、どうも気にくわない。どうしようかと思っていたら、ちょうどそのときタムラのTD-1がロハで手に入った(なぜ入手できたかはまた別のところで書くかもしれない)。これで一歩前進した。

初段はC3gとした。一部ではドイツ製WE310Aとも言われているようだが、そういう噂は眉につばをつけて聞いた方が良い。とにかく、どんな音が出てくるのか興味があった。

元ネタの回路はラジオ技術に掲載されていたU家先生の記事。ただ先生は高gm管はゲインが高くなりすぎるので使わない方がよいとの意見だった。二段目のカソードフォロワー部はGaNで置き換えた。
いろいろ紆余曲折を経てフィクスした回路図は以下のとおり。まずは増幅部から。
そして電源部。ここは前回との変更はない。
できあがりの概観。
電源部。整流管を使わずにGaN素子とするとどうしても出力電圧が高くなる。DALEの270Ω抵抗で調整する。ただし、発熱はかなりあるのでアルミ板で放熱させた。(写真は対策前)
続いて増幅部の様子。フィルムコンが場所を占有する。
初段の細かな部品は基板にまとめた。その右隣にソースフォロワとして使っているGaN素子を配した。

歪率特性。高帰還アンプだけあって0.2W以下では歪率は0.1%を下回る。おもしろいことにハードディストーション特性というわけでもなく、出力が高くなるにつれ歪率も徐々に多くなる。
周波数ごとの特性もそろっていてうまく動作していると判断できる。
次に周波数特性。
低い周波数域の盛り上がりは、パラフィードCと出力トランスによるものであろう。支障を感じないのでこのままとする。
高域については、出力トランスの二次側からNFBをかけていないので、出力トランスの特性がそのまま反映される。
広帯域アンプを見慣れた目には、いかにも狭帯域のようにも見えるかもしれない。しかし音を聞くとまったくそんなことはなく、実に晴れ晴れして気持ちがよい。
【音の特徴】
完成したアンプがどんな音を出すのか、いつものことだが期待と不安が交錯する。
バイポーラトランジスタを使わなかった効果はすぐにわかる。抑圧感がなく、細部もそのまま聞こえてくる。GaNと真空管の組み合わせがどうなるかという点についても、まったく杞憂に終わった。
出てきた音を聞いて最初に感じた印象は、かなり強烈だった。シングルアンプというと、悪くいえば「ひ弱な」、よく言えば「さわやかな」、また高帰還アンプというと「失われた開放感」という先入観があった。ところがこのアンプ、これらをことごとくひっくり返し、実に音に力があって質量さえ感じる。一つ一つの音がぐいぐいと迫ってくるのには驚いた。

バースタインが亡くなる数年前だったと思うが、当地でロンドン交響楽団を指揮したのを聴いたことがあった。オーケストラから発する音の粒子がからだを直撃し、肌がブルブルと振動した記憶が鮮烈に残っている。あのときの感覚がよみがえった。

このアンプの音の特徴は三つにまとめられる。
まず一つ目。
これまで高帰還アンプには懐疑的で、無帰還アンプが優れていると思い込んでいた。しかしきちんと設計さえすれば、高帰還アンプの独特の世界を獲得できることを知った。今後この路線を追いかけることになるだろう。

それから二つ目。
このアンプの音を特徴付けているのはやはり初段のC3gであろう。高い周波数域に独特の輝きというか、エネルギーを感じる。それがいやらしくならないように周辺の部品で調整するのが肝かもしれない。

三つ目。
こんな表現はおかしいかもしれないが、どんな音も均等に出てくる。低い周波数域にエネルギーが偏っているとか、その反対であるとか、そんなことはなくて、全帯域が平等に扱われていて差別がない。ダンピングファクターは測定しいないけれど、かなり高い印象。これまで、ともすれば暴れやすくて音階不明になりがちだったダブルウーファーを完全にアンプの支配下に置き、膨らみもせず、さりとてスカスカにもならず、録音された状態に近い(と推察される)音が出てくる。

しばらくこのアンプの虜になりそうだ。

【トラブルシューティング】
いつものことだが、全部うまくいったわけではない。いくつかトラブルがあった。一つ目はこれはトラブルというわけではなく、C3gのスクリーングリッドの電圧が、最初に設計した抵抗値ではうまく調整できなかったこと。これは抵抗を交換して対応。

もっとも困ったのが、残留ノイズ。Lチャンネルは組み上がった状態そのままで、0.24mVとなった。これに気をよくしてRチャンネルを測定したらどんなことをしても1mVを超えてしまう。高能率のスピーカーでは、耳について落ち着いて聞いていられない。

最初は発振しているのかと思ったが、まったくはずれ。次にアース配線に問題があるのかと推測したけれど、これもはずれ。そもそもLチャンネルとRチャンネルとでは同じ配線である。
次に真空管を疑ったがこれもシロ。こうなると完全に行き詰まってしまった。

それが配線を確認するために増幅部を90度横に倒したときのことである。スーッと雑音電圧が下がって0.5mVになった。「おや?」ということで、これで糸口が見つかった。結論から言えば、高インピーダンス回路であるために、誘導ノイズを拾っていたことによると判断。早速、適当なアルミ板を増幅部筐体(木製)の下に敷いてみたら「あら不思議」、雑音電圧が0.6mVとなった。これで実用レベルとなった。
高インピーダンス回路はきちんとシールドをしないといけない。わかってはいたけれど、わかるまでだいぶ回り道をしてしまった。

コメント

_ Bumpei ― 2022年07月24日 15時33分25秒

GaNの導入により、ご自分の良いという音に近づいているようで、うれしく拝見しています。やはりGaNの良さを認めておられるカニ様が、ファインメットコアトランスの良さをブログで語っておられます。
http://triesteaudio.blog.fc2.com/blog-entry-296.html
Kon様も入力のトランスをファインメットのものに交換されたならば、老婆心ながらまた新しいステージに到達するのではないかと思われた次第です。

_ Kon ― 2022年07月27日 14時07分27秒

Bunpei様。いつも励ましの言葉とともに有益な情報をくださりありがとうございます。

ファインメットトランスは以前から気になっています。ただお財布に優しくないというところが大きな壁になっていて、導入に踏み切れていません。

私の場合、トランスのコアが音に重大な影響を与えるのなら、いっそのこと空芯コイルにすればよいのではという発想になり、それがGaN単段アンプへとつながっています。
いまは単段アンプから二段アンプになり、さらに300Bアンプの経験から、バイポーラトランジスタを使わないGaNアンプを構想中です。

ただ、入力トランスは使うことになるので、ここはやはり最終的にはファインメットでしょうかね。

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