妻とパイプオルガン(1)2014年12月16日 10時48分20秒

いまからおよそ35年ほど前の事になるが、ある女性が私のところを訪ねてきた時、部屋においてあったオーディオ装置に興味を持ち、「音を聴いてみたい」と言ってくれた。

何をかけようか少し迷ったが、当時ワンポイント録音で有名だったカリオペ・レーベルから出されていたイゾワールのバッハをLPプレーヤーに載せた。当時使っていたのはマイクロ精機DD-8、カーリッジはシュアーV15 typeⅢ、アンプはK式、スピーカーはパイオニアPE-201であったと記憶する。

その女性とはその後結婚することになり、今はパイプオルガンの練習に毎日励んでいる。知り合った頃、妻はほとんどクラシック音楽にも、パイプオルガンにも興味がなかった。あのとき、このレコードを演奏しなかったなら、私たちの人生はもしかしてかなり違ったものになっていたのかもしれない。

妻は今、2週間に一度のペースで先生のもとでレッスンを受けている。そして年に数回であるが、定期的に東京から馬淵久夫先生をお招きし、有志の方々が集まって密度の濃い公開講座が開かれていて、それにも参加するようになった。先月、その練習会で妻が演奏することになり、緊張しながら臨んだと言う。

その馬淵先生。元日本オルガニスト協会会長、現在は副会長。そんな方からじきじきに教えてもらうのだから身の程知らずというのか、恐れ入るばかりである。

あるとき、妻が言い出した。「そういえば、あのレコードの解説を書いていたのは馬淵先生ではなかったかしら。」思い出のレコードだから、これだけは手元に残しておいていた。早速取り出して調べてみると、そこに先生のお名前があった。

驚きの声を上げならが、人生とは不思議なものだと二人で言い合ったものである。

妻とパイプオルガン(2)2014年12月16日 11時14分37秒

馬淵久夫先生が当地に来てくださり講習会を開いてくださる。そしてそこへズブの素人の妻が参加を許される。これはもう奇跡のような話である。

先生も高齢になられ、何年もこんな恵まれた環境が続くとは思われない。その恵みを一つももらさずに吸収したいと、妻は熱心である。

熱心のあまり、例の思い出のレコードを持参して、サインまでもらってきた。レコードを見るなり先生は、「よくもっていたね」と言ってくださったそうである。

ついでにイゾワールの話にも及び、「彼は私の友人で、フランスにいた時、すぐ近所に住んでいました。NHKホールのオルガン奏者として彼を紹介したこともあります」とか。聞けば聞くほど、「へえー!」な話が飛び出す。

なにごとでも、第一人者という方には学ぶべきことがたくさんある。