ラインアンプVer.1.0 内部その22009年10月19日 13時43分48秒

 続いて終段部の基板の様子。MOS-FET(IRF9610)がずらりと並んでいる。裏には双信のコンデンサが6個とスケルトン抵抗8個が実装されている。有り合わせの部品を使ったので、所望の値にするため、シリーズ接続しなければならなかった。それもあってかなり実装密度が高くなっている。抵抗類にVishayを使ったら、もう少しコンパクトになるのだろうが。

 半固定抵抗が4個見える。これは終段M0S-FETのバイアス電圧設定用である。

 設計当初、出力電圧のドリフトを心配した。ところが、バランス出力であったことが幸いして、電源ONのときもOFFのときも、まったく音が出ない。まさに無音である。またパワーアンプの出力電圧を測定しても、オフセットはせいぜい30mV程度の電圧しか出ていない。これで安心して使えることがわかった。
 しかし、他のアンプを使うのであれば、もちろん保護回路を入れるべきであろう。

 Aleph-Xアンプを作った当初は、このアンプの音はこんなものかなと、少し期待に届かなかったのが正直な気持ちであった。もっとエネルギーにあふれた音が出るのではと想像していたからである。しかし、ラインアンプを作って初めて納得した。良いパワーアンプであればあるほど、自己を主張したりはしない。前段から与えられたものを粛々とスピーカーに伝えていく役割に徹する。前が駄目なら、それなりの音しか出さない。当然のことだ。改めてAleph-Xの底力に驚嘆した。このアンプの実力を発揮させるためには、きちんとそれなりのレベルのものをつないでやらなければならない。またしても当たり前の結論を得ることになった。

トランジスタの音2009年10月19日 14時05分09秒

 今回作ったラインアンプは能動素子として真空管とMOS-FETしか使っていない。トランジスタは意識的に使わないようにした。Counterpointのマイケル・エリオット氏はトランジスタの音を"harsh"と表現していたように記憶している。「刺々(とげとげ)しい」というような意味だ。だからトランジスタは絶対に使いたくないということらしい。

 私もなんとなくトランジスタに対してはそんな印象を持っている。どこか冷たくて、音楽の表情をそぐような気がしてならない。トランジスタの音を出したくないがために、I/Vコンバーターではわざわざ「またリントン」回路を採用したほどである。

 その点、今回多用したMOS-FET(IRF9610)は非常に癖がなく、どこにでも使いたいと思うほど気に入った素子である。音楽の表情を邪魔したり、色付けしたりすることがきわめて少ない。これが一個百円もしないというのだから、本当に世の中はわからない。それに比べて真空管の値段は二桁は違う。ため息が出てしまう。

6DJ8 ラインアンプVer.1.0 回路図その12009年10月20日 19時11分51秒

 回路図を公開する。まずはアンプ部から。

 Counterpoint SA-5000の概要については、ラジオ技術の1991年2月号で報告されている。その記事の中に推定される回路図のスケッチが簡単に載っていた。最初にそれを見たときは何かの間違いかと思った。6DJ8のカソード側にFETがつながっている。そこまでは良い。驚いたのはそれがP-ch FETであって、ソース側がカソードにつながれていたこと。なぜこんなことをするのかわからなかった。

 その後、SONIC Frontiers Line-2アンプの回路図を見たときも驚いた。なぜわざわざ初段をカソードフォロワにするのだろうか。しかし、そこあたりに音の良さが隠されているに違いない。何か気がかりなものを感じて何ヶ月間か頭の中で思いめぐらしていた。

 その後、試行錯誤をしながらいろいろな音を聴いていた結果、この回路に行き着いた。

 今日の時点で、完成からおよそ48時間が経過した。エージングは不思議なもので、時間とともに音が良くなるとは限らない。ときどき音が悪くなるときがある。昨夜がそんな状態だった。高い方の音が突き刺さるようで、これが同じアンプなのかと驚いた。
ところが今日になるとまた大きな変化があった。大分落ち着いてきた。このまま良い方向に変化してもらいたい。

 音については、どうしても6DJ8を多用していたCounterpoint SA-20と比較してしまう。特に女性ボーカルをどれだけ情感豊かに表現できるかがポイントだ。今のところSA-20に一日の長がある。こんなど素人が、簡単にエリオットさんに勝てるはずはない。当然のことだ。

 ところでこのアンプの最大の特徴は、交差差動結合回路にあるだろう。回路図の真ん中でXの形を構成している。Nelson Pass氏が提唱するXコンセプトを連想させる。Aleph-Xの"X"はそのような意味であるらしいから、システムとしては統一されているとも言える(自信はないが)。

6DJ8 ラインアンプVer.1.0 回路図その22009年10月20日 19時30分09秒

 続いて電源回路。見てのとおり、特殊なところはない。ツェナーダイオードのノイズを低減させるために、フィルターを入れているところが特徴と言えるかもしれない。

 この回路は、diyAudioのフォーラムで報告されていたものを参考にさせていただいた。NFBをかけずにアクティブな制御をさせないほうが、むしろ躍動的な音が得られると言われている。

6DJ8 ラインアンプVer.1.0 回路図その32009年10月20日 19時34分14秒

 最後に、バイアス電圧用電源回路。他の電源回路と考え方は同じ。バイパスコンデンサにOS-CONを使用した。もしまだ製造していたなら、ここにはブラックゲートを使っていたかもしれない。1S1588をわざわざ使っているのは所望の電圧値を得るためで、他に特に意味はない。