GaN Transistor SE Amp 増幅部の解説2022年01月09日 09時18分22秒

ということでいろいろ難航していたアンプがやっと完成した。難航したのは電源制御に関わる部分で、アンプ本体ではなかったことは、これまで書いたとおり。
まずは増幅部の回路から。
全体は、WE420Aによる初段とGaN Transistorによる終段によって構成される。
初段はWE420Aの差動として、バランス信号を受け取る。プレートはTSA1765によるフォールデッドカスコードで、その出力はBCM61Bでカレントミラー合成されて終段に渡される。

初段から終段へは直結とした。
実を言うと最初にこの回路を作ったとき、ここはC結合にしていた。そうしたほうが初段と終段がDC的に分離されて、非常に設計しやすいからでもあったし、それだけ聴いていれば不満を感ずることなく済ませていただろう。
ところが実験的にCをはずして直結してみたら、解放されたかのような音が出てきたので非常に驚いた。これは直結するしかないと即断。

このような違いが起きたのは、初段がCをドライブし切れていないからだろうと推測している。シミュレーションによれば、周波数が低くなると劇的に歪率が悪化し、波形が崩れるのが見て取れる。

Cをとるのはそう簡単ではなかった。直結すると、終段のアイドリング電流が初段と終段の両方の影響を受け、シーソーのような関係になる。そのところで少々苦労したが、なんとか妥協点を見つけることができた。
問題は、電源の起動/停止に伴うショック音が出てしまうこと。C結合していたときはほとんど出ていなかった。
その対策のために、PICやらフォトボルライック素子まで動員しようとしてあたふたしたことは既報の通り。

増幅部の説明に話を戻す。
終段の構成は、すでに実験で確認が済んでいるように、ソースフォロワでGaN Transistor(GS61004B)を駆動する。この構成がベスト。
終段のドレインは100mHのインダクタで受け、Cを経由して出力される。

いまどき、パワーアンプ出力にCがあるのは時代遅れと思う方もおられるだろうか。1970年代にはなばなしく登場したDCアンプブームで、コンデンサ、その中でも特に電解コンデンサは諸悪の根源であるかのように言われ、AC出力アンプは低レベルというイメージが定着してしまった。私もその風潮に乗ってアンプ作りに励んできた一人である。

しかし、今一度原点に戻って冷静に考えてみれば、半導体アンプであれば電源部には必ず電解コンデンサを使う必要があり、その電源は増幅部と一体となって動作するわけで、信号は増幅部→スピーカー→電源を経由する 。もちろん出力に電解コンデンサがないのが望ましいとの意見は尊重するが、全体のバランスををみながら設計することも大切ではなかろうか。
ということで、出力に電解コンデンサを使う。ただし、そのままでは高域が伸びないのでフィルムコンをパラ接続する。

NFB抵抗は点線の楕円で囲ったR15(47KΩ)で、初段と終段の結合部分に戻す。
見ておわかりのとおり、初段から高インピーダンスで出力された信号を、終段が反転アンプで受ける構成。この結果があまりにも素晴らしく、KT88ppアンプや300Bアンプにも迷いなく導入を決めた。

終段のアイドリングはおよそ800mAとし、その調整はQ4のエミッターにある500Ω半固定抵抗で行う。ただ500Ωではかなりクリティカルになり、100Ωの固定抵抗と100Ωの半固定抵抗の組み合わせにしたほうがよい。500Ωとしたのは手持ちにそれしかなかっただけのことで、あとで修正の予定。
最後に現在のアンプの様子。まだ整理していないので、接触防止のために入れた手袋まで写っているのはご容赦。

GaN Transistor SE Amp 電源部の解説2022年01月09日 15時07分17秒

続いて電源部に移る。
+102V電源について
まずは初段用の+102V電源から。
整流は、GaN Transistorをダイオード接続して使用。平滑回路を経て無帰還の安定化回路に至る。基準電圧はWE427Aで得る。ちなみに放電管の使い方なのだが、一般に基準電圧源にはインピーダンスを低く保つためにCをパラ接続する。それで当初は0.47uFを接続した。ところが低い周波数でノコギリ波発振してしまう。この現象についてはMJ誌の記事にもどこかで触れておられる先生がいた。 なのでCははずしている。

制御トラはもちろんGS66502B。放電管とゲートの間にはTLP172Gがあって、後述のPICシーケンサからの制御信号Cont1を受けて起動/停止を行う。

なお、無帰還の安定化回路を設けたのは初段が電源リップルに敏感で、対策しないと出力雑音が大きくなるためである。

基板の表面と裏面の様子。
左上にGS66502B、真ん中にLPT172Gが見える。

+28V電源およびシーケンサ
まず回路図から。
PICの7番ピンからのCont1信号は+102V基板にあるTLP172Gを経由して起動/停止を制御する。
同じく5番ピンから出たCont2信号は別のTLP172Gに行って、+28V電源の起動/停止を制御する。
+28V電源のスイッチングはGS61004Bで行い、そのためのG-S電圧は+102V基板からもってくる。フォトボルタイック素子で右往左往したのが嘘のような単純な解決方法だ。

なお、チョークコイルに並列にせつぞくされているSMBJ45CAは、電源OFF時の逆起電力を吸収するもので、GaN Transistorが破壊されないように万が一のために入れている。

基板の表面と裏面の様子。
フォトボルタイック素子を取り去ってしまったので、ずいぶんと間の抜けた基板になってしまった。いつもSMD(表面実装)部品ばかり扱っていると、スルーホール部品がやけに大きく見える。