ボルテージ・ミラー型シリーズレギュレータ(4) 失敗編2016年01月22日 20時37分39秒

---2016年1月25日追記---
この記事の途中にも追記で書いたが、ここで提案されているレギュレータは発振しやすいため、実用にはならないことが判明した。
誰も作る人はいないとは思うが、以下の記述には誤りがあることを留意されたい。

(ここまで)
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DDC(I2SOverUSB)のUSB側の電源に新しいタイプのレギュレータを採用したことは報告の通り。その後常時通電状態にしているが、まったく問題なく作動している。

そんななか、妻からオルガンの音が良くないのでなんとかして欲しいとの依頼が来ていた。トランンペット系の音を出そうとするとギスギスして耳にひっかかるというのだ。そのためオルガンを弾く意欲が随分と削がれてしまい、練習に身が入らないと訴える。

妻のオルガンシスムテムのDACにはほぼオリジナルに近いSalas Reflektorが3台搭載されている。いままでの経験から、おそらくこれが原因であろうとあたりがつく。

現在、こちらのメインシスムテで使っている新型のReflektor(これを勝手にAdvancedと呼んでいる)をそのまま妻のDACに載せることも考えたが、回路が大規模になってしまっているので、音は良くなることはわかっていても躊躇する。

ならば、いっそのことボルテージ・ミラー型のシリーズレギュレータにしたらどうか。それが今回のミッションである。

どうせやるなら、音が良くならなければ意味がない。
何しろ妻の耳は容赦がない。私のような下手な思い入れなどないから、問題があれば1秒でずばりと指摘する。そんな相手先に、私のシステムで評価せずにいきなりの投入である。新しいシリーズレギュレータが妻の耳に受け入れられるかどうか、正直言うと少しばかり緊張した。

まずは事前に何度もシミュレーションをかけて問題点をつぶす。だいだい回路が固まってくるとパイロット基板を作ってさらに問題をあぶり出す。

そうやってできたのが掲載の回路。グラフは、周波数を横軸に取った出力インピーダンス特性である。一見して、普通のレギュレータの特性でないことがわかるだろう。

理由がある。当初考えていたレギュレータは次の欄で紹介するとして、まずはQ4のベースの電位設定に着目されたい。

Q4は、定電流回路を構成するJ2のD-S間電圧を安定させる役割がある。
その電圧の基準電圧は101点である。ここが「みそ」である。

J2にかかる電圧はなるべく変動を受けない方が良いのだから、そのことを優先するなら基準電圧はOUTからとるべきである。最初はそう考えた。しかし「臍曲がり」な性分なのか、それでは満足できない。そこで101点からとることを考えた。

その効果は何か。
仮に負荷電流が増大したとしよう。これにともない、M1のG-S間電圧が増大する。式で表すと次のようになる
    V(101)=V(OUT)+V(M1:G-S)

その効果はJ2のD-S間電圧が増大するので出力電流も増大させる方向に働き、Q2のベース電圧を高くする方向に作用する。その結果、出力電圧が高くなる。


つまり、この回路は負荷電流が増大すると出力電圧が高くなるという負性抵抗の性質を持つ。もちろん、その効果は非常に小さいので、発振などの悪い影響を与えることはない。

---2016年1月25日追記---
「発振しない」と書いたが、実機で稼働させたところ、発振することが判明した。記事を削除すればよいのだろうが、失敗したこともそのまま残しておくことにする。
(ここまで)
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この効果によってどんな音になるのか。それは聞いてみなければわからない。もしかして従来型が良いかもしれない。もしそうなっても、負性抵抗型レギュレータには意味がなかったという実験結果が得られるのであれば、それも人類のための貢献だろう(おおげさ)。

一般に増幅回路の電源電圧は一定であることが理想とされている。しかし現実は、負荷電流が増大すると電源電圧が低下するので、増幅回路には抑圧的(コンプレッサー)な作用をもたらすだろう。


しかしこれが反対に、負荷電流の増大に伴い電源電圧が高くなるのであれば増幅回路は拡張的(エキスパンダー)の方向に作用し、音が躍動的になるかもしれない。本当にそうであるかは、聞いてみるしかない。

---2016年1月25日追記---
やはり負性抵抗型レギュレータは位相特性を見て分かる通り発振は免れない。よって、実用にはならない。

(ここまで)
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その他の特徴は以下の通り。
(1)M1に高周波用のMOS-FETを採用した。すでにディスコンになっていて、市場に出回っているのは在庫のみのようである。おもに移動通信用のRF増幅回路に用いるものらしい。オーディオ用途でどこまで使えるのか、音を出してみるまでまったくわからなかった。
これを採用した理由は、ひとえに位相回転が始まる周波数を高い方に移動させ、オーディオ帯域での位相回転をできるだけ抑えるためである。

(2)Q1負荷は一般にJFETによる定電流回路を用いるが、そのままだと電源電圧の変動をもろに受けてPSRRが悪化する。
そこでQ7〜Q14を設けて、電源電圧の変動を受けにくくしたJ2の電流をQ1の負荷とした。

(3)このタイプの基準電圧はQ1のエミッターに与えるのだが、そのままでは電圧の変動を受けやすいため、Q2によるバッファを挿入する。
基準電圧は、GND側から追っていくと、Q8,Q7,Q2,Q1のB-E電圧とD1で与えられる。

(4)Q4のベース電圧を101点からとったことにより、スタート回路なしで出力が出るようになった。これで回路は単純になった。

(5)M1のアイドリング電流はJ1によって得ている。電流を多くすればするほど音が良くなるであろうと推測されるが、それが今後の課題である。

(6)Zobelは回路図の通りで、非常に軽微である。大容量の電解コンデンサを必要としない。

(7)この回路には抵抗が一個しか使われていない。これは気持ちが良い。いつも言うようだが、抵抗は音を悪くすると思っている。
音を悪くしにくい抵抗はあったとしても、音をよくする抵抗が果たしてこの世にあるのだろうか。

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