パワーアンプ試作中(4)2015年10月19日 10時49分19秒

 Taylor' source followerが高い能力を秘めていることが見えてきたので、きちんとしたドライブアンプをつくることにした。

 掲載の回路図を説明していく。

1) 初段にLU1014Dを投入した。これまでこの素子については、ソースフォロワーとしてしか使ったことがなかった。きちんと増幅動作をさせて、どんな音が出てくるのか確認してみたい。

2) LU1014DはVdsが大きくなるにつれ極端にゲート漏れ電流が増えるという性質があるので、カスコードでVdsをおよそ3V以下に固定する必要がある。その役割を担っているのがIRF640。これは手持ちの関係でそうなった。
 ゲート電圧は赤色LEDを4個使って固定する。LEDの動作電流はMMBF5462による定電流回路とした。このFETの最大Vdsは-40Vである。なので回路図の使い方では最大定格を超える可能性がある。検討の余地を残している。

3)2段目はIRF610によるソースフォロワーである。ソース負荷は単なる抵抗で十分なのだが、ここはチョークトランスにこだわった。以前、Analog親爺様から譲っていただいたすばらしいトランスで、机の中にしまっておくなんてもったいない。

4)終段への信号の受け渡しはCR結合とした。直結回路も考えたのだが、安全面とシンプルであることを優先してこうなった。Cについては、ロシア製オイルコンデンサにこだわっている。ただこのコンデンサ、あまりにも大きいので実装には苦労する。

5)終段はTaylor source followerそのものである。出力端にはGNDを基準として-4.5VのDCが発生している。しかしバランスアンプなのでHotとCold間のDC電圧は無調整でおよそ10mVにおさまる。出力端を誤ってGNDにショートさせたら危険ではないかと思うかもしれないが、後述するようにフローティング電源を採用しているのでそのような事故は起こらない。

 オリジナル回路から私なりに工夫を凝らしたのは、カレントミラー回路を採用したところにある。
 理由は二つある。一つは、音を悪くする抵抗の数を極力抑えたかったこと。二つ目は、Reflektor-Dでカレントミラードライブが大きな成果上げたので、そのアイデアを使いたかったからである。
 いっけんトランジスタの数が多くて複雑に見えるかもしれないが、実装してみると非常にシンプルで拍子抜けがする。

6)電源部。
 初段の電源についてはコメントすることはない。終段部の電源は左右別電源としている。なのでこれだけの回路なのに三つの電源系で間に合う。これはコスト面でも実装面でも非常にメリットが大きい。
 前述したように終段部の電源はフローティングになっていて、GNDからはDC的に浮いている。回路図にあるように35Vの二つある電源端からそれぞれ0.22uFでGNDに落としている。これによって終段部の出力DCが定まる。
 最初は半信半疑であったが、やってみるとあっけないほど安定して動作する。

7)検討課題
 定電流用FETの最大定格を超える可能性があるので、これは対策が必要である。
 私が考える回路はだいたいどこかに問題があって、そのうちディスコンにしてしまうことが多いのだが、今回はまずい点がみつからない。会心のホームランという期待がある。
 これで問題がなければ、初段と2段目のMOS-FETを6DJ8に置き換える予定である。

8)音
 さて肝心の音はどうか。
 終段部だけを作り上げてCounterpoint SA-20(大幅改造)と比較した時、一聴してSA-20の引退を決断した。ただその時点では、アンプがゲインを持っていなかったため、どこかもどかしさを感じたことも事実である。
 ドライブアンプを作るにあたって心配したのは、終段部の良さが、ドライブアンプによって減殺されるのではないかということであった。しかしやってみたら杞憂であることがわかった。むしろ終段部の良さがもっと際立つようになった。

 SA-20との比較になってしまうのだが、この試作機の良さは次のところに現れている。
・透明感 これは最初の音を聞いた瞬間からはっきりとわかった。空気が澄み切ったことにより、広大な前後左右、そして天と地の奥行きが大幅に拡大した。

・実在感 演奏者がぐっと前にせり出してきた。以前は演奏者が5m先に立っているように感じたのが、すぐ目の前に立っているが如くである。

・表情 どんなに音が良くても音楽の表情が欠けていたのでは、存在する価値はない。透明感と実在感が増したことで、音楽の表情が非常に分かりやすくなった。

・静寂性 バランスアンプなのでハムなど一切のノイズが聞こえないのは当たり前である。しかし単にノイズが聞こえないという意味ではなく、音楽に付随して発生するノイズが非常に小さいためなのか、どんなにフェーダーをあげて大音量にしても音が静かなのである。この音を聞くと、これまでの音はどこかにノイズがつきまとっていて、心の奥深いところでストレスになっていたのだと気がつく。

・Nelson Pass氏は、Zenアンプシリーズの中でZenV9アンプを最高傑作と言っている。そこに採用されていたのがLU1014Dである。Pass氏はこのあとFirst Watt SIT-1 SIT-2を発表していく。終段の素子をわざわざ特別にSemiSouth社に作らせたものであるが、おそらくこのLU1014Dが念頭にあったものと推測している。かえすがえすもSemiSouth社がつぶれてしまったのは惜しかった。
 閑話休題。
 Pass氏が惚れ込んだLU1014Dである。期待を裏切ることはなかった。この音の半分はLU1014Dの貢献であると信じている。もちろん後の半分はTaylor source followerである。

 現在エージングを開始して1週間が経過した。オイルコンのエージングには500時間かかる。高音域にとげとげしさが若干残っており、低音域はまだ便秘がちである。それでもこのアンプの良さは十分に伝わってくる。

パワーアンプ試作中(5)2015年10月19日 16時25分12秒

 試作したパワーアンプの様子。
1)左上から、ドライブアンプ。
ドライブアンプなのに巨大な電源トランスを使い、おまけにチョークトランスとオイルコンデンサもてんこ盛り状態である。肝心のアンプ部分は左パネルの陰になってまったく目立たない。

2)右上は、終段部。
写真には、汎用整流ダイオードが写っているが、現在はSiC SBDに入れ替えている。

3)左下は、Taylor Source followerの実装部分。これが計4台ある。
見てのとおり、あっさりしたものである。放熱器は手持ちのものを使った。これが放熱フィンが片側にだけ付いていて基板側がフラットなものであれば、実装はもっと楽になる。

4)終段部のパルス応答波形。(上段が入力、下段が出力)
8Ω負荷。周波数は100KHz。非常に周波数特性が良いため、10KHz程度では入力との違いが見えてこない。
なおノイズが多いように見えるのは、プローブがGNDから浮いているためである。