GaN Transistor SE Amp 電源部の解説2022年01月09日 15時07分17秒

続いて電源部に移る。
+102V電源について
まずは初段用の+102V電源から。
整流は、GaN Transistorをダイオード接続して使用。平滑回路を経て無帰還の安定化回路に至る。基準電圧はWE427Aで得る。ちなみに放電管の使い方なのだが、一般に基準電圧源にはインピーダンスを低く保つためにCをパラ接続する。それで当初は0.47uFを接続した。ところが低い周波数でノコギリ波発振してしまう。この現象についてはMJ誌の記事にもどこかで触れておられる先生がいた。 なのでCははずしている。

制御トラはもちろんGS66502B。放電管とゲートの間にはTLP172Gがあって、後述のPICシーケンサからの制御信号Cont1を受けて起動/停止を行う。

なお、無帰還の安定化回路を設けたのは初段が電源リップルに敏感で、対策しないと出力雑音が大きくなるためである。

基板の表面と裏面の様子。
左上にGS66502B、真ん中にLPT172Gが見える。

+28V電源およびシーケンサ
まず回路図から。
PICの7番ピンからのCont1信号は+102V基板にあるTLP172Gを経由して起動/停止を制御する。
同じく5番ピンから出たCont2信号は別のTLP172Gに行って、+28V電源の起動/停止を制御する。
+28V電源のスイッチングはGS61004Bで行い、そのためのG-S電圧は+102V基板からもってくる。フォトボルタイック素子で右往左往したのが嘘のような単純な解決方法だ。

なお、チョークコイルに並列にせつぞくされているSMBJ45CAは、電源OFF時の逆起電力を吸収するもので、GaN Transistorが破壊されないように万が一のために入れている。

基板の表面と裏面の様子。
フォトボルタイック素子を取り去ってしまったので、ずいぶんと間の抜けた基板になってしまった。いつもSMD(表面実装)部品ばかり扱っていると、スルーホール部品がやけに大きく見える。

VP-7723Aの電解コンを交換する2022年01月11日 22時38分26秒

以前から、VP-7723Aの電解コンデンサを交換したいと思っていたが、普段はなかなか手をつけられない。休暇中の間にやることにした。

と言っても、全部はさすがに難しい。今回は電源ユニットに限定した。
基板はゆったりとできていて、作業がやりやすい。2時間かからずに終了した。事前に回路図を印刷し、交換したものから印をつけて間違いがないように念を入れた。こういうとき、回路図があると実に安心である。
写真は交換後の基板。
はずした電解コンの様子。特に膨れていたり液漏れしたものはなかった。

続いて交換後の性能確認。まず内蔵発振器から。1KHz,3.16V入力時、 マニュアルに掲載されている「代表的な歪率特性グラフ」から0.0005%以下と読み取れる。交換前は仕0.0016%しか出なかったのが、交換後は本来の性能が発揮できるようになった。
続いて残留雑音。仕様では10μV以下だから、これもOK。
これで気持ちよく測定ができる。

300B シングルエンド 整流管2022年01月24日 17時14分20秒

なんでも初めてのことをするときは、いきなり本番というわけには行かない。プロトタイプを何台か作ってバグだしをしながら徐々に完成度を上げていく。そうやって初めて完成に至る。
そういうわけで電源部は、KT88ppから借用して間に合わせていた。完成度も上がってきたので、そろそろ専用電源を作ることにした。

電源トランスはDynaco Mk3のものを某オークションから入手。問題は整流管である。調べてみると、WE274A/Bこそが本命ということで一致している。しかし、いまや絶滅危惧種の筆頭であり、美術品扱いで価格は高騰。とても素人が手を出せるようなものではない。

そんなときPSVANEは、中国、香港、台湾、アメリカの四カ所の技術者を総動員して1年半をかけてWEのレプリカを開発し、その名もWE274Bを世に出した。世評は高く、値段も高い。

PSVANE WE274Bは将来の夢ということにして、今回はPSVANE 274B(クラシックシリーズ)で我慢することにした。
(写真は、同社のホームページから)

さて、整流管が届いたところで、おもむろに電源部の製作に着手する。その顛末はまた別の記事で。

300Bシングルエンド 電源部の解説2022年01月24日 18時58分14秒

新しい電源部の仕様は次の通り。
(1)電源トランスはDynaco Mk3のものを流用
(2)整流管は前述の通り、PSVANE 274Bとする
(3)300Bのフィラメントを定電流点火とする

回路図は以下のとおり。
例によって、「まな板」を切り出してシャーシとする。写真は制作途中の様子。

以下、フィラメント定電流回路についてのコメント。
・フィラメント電源の整流には、ほんとうはGaNダイオードを使いたかったのだが手持ちがなく、今回はInfineonの第6世代SiCダイオードにした。

・それから、これまで定電流回路はバイポーラトランジスタのVbe電圧を利用していたのだが、これを止めて、石塚峻氏が提唱しているようにTL431を使った。フィラメントへのリップルはノイズに埋もれて観測できないほど小さくなった。

・当初、ごく一般的なπ型フィルタでやってみたところ、GS66502Bの発熱が大きく、放熱板の温度が軽く100℃を超えてしまった。トランスの電圧を下げることができないため、チョーク入力型フィルタにしたところ、実用レベルに落ち着いた。

写真は定電流回路周辺の様子

できあがった電源部を8pinプラグで増幅部に接続し、動作試験をする。今回は大きなトラブルも起きなくほっとする。
写真はカレントミラー合成部の電圧を300Vに調整している様子。

300Bシングルエンド アンプ 結果は2022年01月24日 19時31分01秒

まずは300Bのフィラメントを定電流点火した効果から。
VP-7723Aで残留雑音を測定する。8Ω単純負荷時。
L-ch : 0.42mVrms
R-ch : 0.26mVrms

交流点火の時はおよそ4mVrmsはあったから劇的な改善で、ハム音に悩まされたことが遠い過去のように感じる。
L-chがR-chに比べて大きいのは整流管のばらつきによるものと推定する。

実を言うと、通電当初L-chから不定期にバシッという放電しているようなノイズが出て肝を冷やした。よく見ると、どうも整流管からのようで、ノイズもかなり大きい。そのまま通電して数日したらノイズも小さくなり、放電現象もなくなった。もともとPSVANE 274Bはそのような造りなのだろう。

電源部が完成してからおよそ1週間、エージングを重ね、音もだいぶ落ち着いてきた。さすが出力段が真空管であることの意義は大きく、前にせり出すような力強い音でありながら、なおかつ音楽性に富んでいて、聴いていて心が躍り出す。
世の人々が300Bアンプを称揚する気持ちはよく理解できる。

整列した300Bシングルエンドアンプ。ST管が横並びに4本並ぶとなかなか壮観である。

後日談
そこで終われば人はおおくのことを悩むことなく、幸せに過ごせただろう。どうしても先に作ったGaNシングルエンド・アンプと比較したくなる。聴いてみて頭を抱えた。
GaNシングルエンドアンプがすばらしくよいのである。音に質量があり、前にせり出していながら、非常に落ち着いていて包み込むような優しさに富んでいる。もちろん人の心を揺さぶる音楽が聴こえる。

それに比べて300Bシングルエンドアンプは、決して悪いアンプではないのだが、雑味が混じり、がさがさしていて洗練されていない印象がある。
この違いはどこから生じるのか考えてみたが、整流管がまだエージングが十分ではないのかもしれない。

ここで次なる課題が浮かび上がる。
おそらく300Bアンプの実力を発揮させるにはWE274Bが必要なのだろう。しかしそのことを享受できるのは、懐に余裕のあるごく限られた人々であって、なにか釈然としない。世界は貧富によらず血筋によらず、だれにでも機会が公平に与えられることを目指してきたのではないか.

そこで、すでにGaNダイオードがすばらしい結果を出しているのだから、これを300Bアンプに応用できないかということになる。そこで検討しなければならないのは耐圧である。

GaN素子は最大で650Vに規定されている。300Bアンプの電源トランスの電圧は約480V。要求される耐圧はこれの3倍だから、1500V程度となる。全く足りない。
唯一の解決策は直列接続することだが、果たしてそれでうまくいくのかは実験してみないとわからない。
このテーマについては、また進展があったら取り上げることにする。