2N3634について2024年01月10日 21時17分19秒

電子ボリュームMUSES72323の能力は、ラインアンプによって大きく左右される。そこで、昨年秋からずっと13D2ラインアンプに関して試行錯誤の日々を続けてきた。

そこで明らかになってきたのは、PNPトランジスタ2N3634のすばらしさである。これを採用したのは、たまたま手元にあったからで、そこになにか深い事情があったわけではない。後から振り返ればこれは大きな幸運だった。

実を言えば300Bシングルアンプに手を出したとき、この音は半導体では到底だせないのではないかと愕然となり、GaN素子だけは例外として、ほかの半導体素子にはお別れ宣言をしようか。そこで逡巡があった。

しかし2N3634の音を聴いて、半導体にもまだまだ可能性があることに気がついた。なので前言撤回。

手元にある2N3634は数年前にeBayで中古として購入したもの。それまで全く知らなかった2N3634に目をつけたのは、メタルキャンタイプで金足であり、中古であれば値段もこなれていたというだけの理由。人生何が幸いするかわからない。
ラインアンプでは、2N3634は単なるエミッターフォロワーで使っているだけである。それなのに、これを通すだけで音に力が漲り、からだを快く圧すると感じるほどの力があり、それでいて実に優しく、空間の描写力も申し分ない。もちろんこれは2N3634だけではなく、MUSES72323のたまものでもあろう。

前回の記事で2SA726とダーリントン接続をしてみたけれど、実は全くダメだった。音が痩せこけてしまい2N3634を使ったメリットはまったく感じられない。使うなら2N3634単独でなければならない。


こうなると、どうして2N3634がこんなにすばらしいのか、その理由を知りたくなる。データシートには、Radiation Hardenedとあって、耐放射線能力を強化したものであることがわかる。ミリタリー用途にも使われるらしく、その筋の仕様基準を満たしているともある。どおりで一個10ドルもするわけである。

半導体は真空管に絶対に勝てない。これが大方の(もちろん例外はあるだろうが)意見であろう。しかし2N3634の能力を発見したいま、この見方は少し修正すべきかもしれない。半導体が原理的に能力が劣っていたのではなく、コストダウンを優先させるという産業界の事情によって、半導体が本来持っていた能力を出し切れていなかっただけではないのか。

2N3634は、材料はもちろん、製造工程、製造管理がすべて理想的な状態で造られた素子であるが故に、このような素晴らしい音を出しているのでは。これが今のところの推定である。

かのWestern Electronicsの真空管が素晴らしいと言われるゆえんは、設計はもちろん、材料管理、製造管理のノウハウが他社の追随を許さないほど徹底されたものであったとか。

ものづくりは、真空管であろうが半導体であろうがその原則は変わらない。

翻って、最近はコスパとかタイパということばが大声で叫ばれ、手間暇をかける職人技のようなものはどんどん脇に押しやられていく。寂しいことである。

13D2+2N3634 バッファーアンプ2024年01月11日 20時02分58秒

やっとバッファーアンプの回路がフィクスした。実を言えば、ここに至るまで試行錯誤の連続だった。

最初のバージョンで問題になったのは、入力端子に発生する電圧。このまま電子ボリュームMUSE72323に直結すると、ボリュームを変化させるたびにノイズが発生する。MUSES72323のデータシートにはきちんとこんな場合はCを入れてDCをカットするようにと書かれている。なので使い方の問題なのだが、なんとかこのCを入れない方法はないかと考えた。

DC電圧が発生するのは2N3634のベース電流が流れるため。この問題を解決するために回路を工夫した。それがこれ。
13D2のカソードと2N3634のベースをつないでしまう。少し複雑になることに目をつぶれば、ベース電流の影響から逃れることができる巧妙な回路である(とうぬぼれた)。早速組み立てて音を聴いてみた。

結論。だめだった。なぜかわからないが、最初のバージョンに比べてどこかおとなしくて、迫力が後退する。複雑にした意味が全くない。即没。

次に考えたのが、ベース電流をキャンセルできないかということ。トランジスタ入力のOPアンプの一部ではこの方法が用いられている。それでカレントミラー回路を入れ込んでみた。ブレッドボードにトランジスタ部だけ組み立てて試験してみるとうまく動くように見える。それで本体を組み立てみた。
結果。音はきちんと出るのだが、電源オフ時に発振してしまう。最初、発振しやすいと言われるカソードフォロワー、エミッタフォロワーが怪しいと当たりをつけ、グリットやベースに抵抗を挿入してみたが、全く効果無し。電源回路から回り込むノイズもひどく、ハム太郎状態。おまけにボリューム操作時にノイズも出る。それで回路図にCが入っているのはこのため。これも没になった。

そんなこんなでいろいろ回り道した結果、結局もとの回路に戻った。無理せず素直にCを入れる。こうするとマイナス電源がいらなくなるという大きなメリットが生まれ、電源から回り込むノイズにも悩まなくて済む。
回路図はまことにシンプル。
電源部。
本機の外観。
そして裏面の様子。
シャーシがやや大きくて、全体に間延びした配置になっている。ただ試験をするときには作業がしやすくて助かる。
半田付けが終わったのは1月9日だからまだ音は落ち着いておらず、やや硬い。じっくりと熟成を待つ。

この回路、一つだけ欠点がある。出力電圧がおよそ6V程度あるので後ろにつながるパワーアンプは必ずDCカットすること。300Bシングルアンプはトランス受けなのでその点は問題ない。

そしてもう一つの課題。実はこちらの方がやや深刻なのだが、出力のホットHとコールドCの電圧差がおよそ500mV程度発生する。今はこれを無視してトランスで受けているけれど、あまりよいことではない。これをどう解消するか。今後の課題となった。