GaNアンプ 完成篇2024年04月03日 20時24分35秒

その後、小さな変更を加えて回路が定まった。
まずは増幅部。
変更箇所は以下のとおり。
入力トランスの二次側を600Ω接続から150Ω接続に変更。
C3mを五結に変更したところ、ゲインが大きすぎて使いづらくなったため接続変更でゲインを6dB落とした。

同じく入力トランスの二次側に1KΩを並列に接続。オープンのままだと音が暴れる。

C13,C14をグランド接続からカソード接続に変更。わずかの差だが、こちらが好ましく聞こえる。

R3はデールの巻線抵抗で、以前に使っていたアムトランスのカーボン抵抗と比べて、音の陰影がくっきりとして透明感が増す。プレート抵抗はこれに限る。

続いて電源部。
R9,R10を8.4KΩから1KΩに変更し、他はそのままである。

(総評)
終段に使ったGaN素子は個性を押しつけるようなところはなく、出てくる音はC3mそのもののように感じる。というのは、初段にC3gを使った300Bシングルアンプと音の傾向がよく似ているからである。濃密で充実感に富み、音楽の楽しさが伝わってくる。
今の構成における完成形であろう。

ただし、気になるところはある。C3mを五結にしたおかげで、これは300Bシングルアンプでも問題となったのだが、インピーダンスとゲインが高いためにノイズを誘導しやすい。不定期にジーという音が聞こえてくる。これはなんとかしたいところ。

ゲインを下げればよいかと思ってC3mのカソードパスコンをはずしてみた。たしかにゲインは下がってジーは聞こえない。しかし同時にまったく聞くに堪えない音になってしまった。音に力がなく、何も感動が起こらない。すぐに元に戻した。
単純にゲインが低くなったことがゲインではなく、カソード抵抗による電流帰還が音をダメにしてしまっているのだろうと推測。
固定バイアスのメリットは、こういうことと関係しているのかもしれない。

ということで、次なるアンプを構想する。
(1)五結ではゲインが高すぎるというのであれば、初段は三結とする。
(2)終段はGaNのドレインフォロワーとして、終段にもゲインを持たせる。前回は音が高域に偏りうまくいかなかったが、なんとか再挑戦したい。
さてどうなるか。

GaN Single End Power Amp その112024年03月11日 20時40分30秒

いつものことだが、時間とともにいくつかのことに気になるところが出てきた。
高音域になにか微妙なひっかかりがあって耳にさわる。歪率には表れないけれど、初段C3mの動作点が最適ではないのかもしれない。他の作例を見ると、プレート電流を2mA程度流している.

それからもう一つ、ノイズがやや多くて気になる。これもなんとかしたい。ノイズの原因を探ったのだが、決定的な原因はつかめなかった。電源のリップルはきわめて小さい。となると高インピーダンス回路に静電誘導でノイズが侵入しているということか。終段GaNのゲート配線に指を近づけると雑音電圧が跳ね上がる。

(対策)
・初段の電源電圧を高くするとともにカソード抵抗を2.7Kから1Kに変更する。
・ノイズ対策として、終段GaNのゲートまでの配線をシールドにする。加えてプレート抵抗とカップリングコンデンサに銅箔を貼り、これをグランドに落とす。

(変更後の回路図)
まずは増幅部。
続いて電源部。
当初、R9, R10を入れずに電源をオンしたら、トランスが数秒間うなった。それもそのはずでC7, C9への初期のリップル電流が数アンペアにも及び、一瞬短絡状態になるからと判明。R9, R10はもっと小さな値でもよいのだが、手持ちの関係でこうなった。スケルトン抵抗を使っている.

(効果)
・音の傾向は対策前と大きく変わらない。しかし、あの気になっていた高音域のひっかかりはなくなり極めて滑らかで、安心して聴ける。この「安心して」というところが大事で、どこかに問題があるとすぐには気がつかなくても、聴いていて落ち着かなかったり、心が騒いで音楽に没頭できない。大げさかもしれないが、日常生活にも影が差してくる。

アンプの出来が良いか、それとも悪いかを判断するのには、人間の声が一番よくわかる。良いアンプは、冷たくなった人の心をあたたかくし、気落ちした者を励まし、ささくれだった感情を穏やかに鎮めてくれさえもする。
このアンプは、そんな方向に近づいたかもしれない。

(課題)
残留ノイズは対策した結果、数値上では0.6mVから0.25mVになった。しかし、あいかわらずダブルウーファーからはハムが目立つ。きっと見落としているものがあるのだろう。今後の課題とする。

GaN Single End Power Amp その102024年03月05日 18時39分46秒

GaN(窒化ガリウム)トランジスタを終段に使ったパワーアンプ、その後いくつか手を入れて、ますます素晴らしい音に変貌してきた。まずは増幅部の回路図を。
回路の説明
調整箇所は次の二カ所
VR1: 初段C3mのプレート電圧調整
VR2: 終段GS66502Bのアイドリング電流調整

当初、プレート電圧によって歪率は大きく変化するだろうと予想していた。ところが実際にVp=30〜80Vの間で様子を見てみると、ほとんど変化しない。これにはしょうしょう驚いた。
ただし、Vp=100Vを超えた場合もそうであるかどうかは不明。

左チャンネルと右チャンネルとで歪率を比較すると結構な差がある。これはC3mの個体差によるものであろう。

続いて電源部。高電圧部の平滑回路にはチョークを入れた。
(トラブルシューティング)
いつものように、ここに至るまで艱難辛苦(おおげさ)がいくつかあった。
1)終段の発振
VR2を回して徐々にアイドリング電流を増やしていくと、ある時点から発振を始めた。発振は12秒間隔で始まり、数秒間大暴れした後また静かになるという繰り返し。当初、増幅素子を疑ったり、配線を疑ったがすべてシロ。
最終的にGS66502Bのドレイン端子近傍にバイパスコンデンサC20をつけたら、もののみごとに発振はおさまった。ソースフォロワのドレインはコンデンサでインピーダンスを下げるというのが鉄則。これを忘れていた。
ついでにC19も付加してLND150にも対策を行った。
わかってみればまことに馬鹿馬鹿しいことであるが、この現象に悩むこと数週間。一時は止めようかと思ったことも。諦めなくてよかった。
ついでに言えば、バイパスコンデンサのことに気がついたのは、たまたまドレイン付近に指を触れたら発振がおさまったことがきっかけだった。
発振の原因を探るとき、いろいろなところを感電に注意しながら触れてみるというのは、意外な発見をもたらすことがある。

2)C3mの第二グリッド電圧の固定方法
当初、定石通りに+140Vを抵抗で分割してG2の電圧を与えていた。
そこへたまたまコメント欄にコメントが入り、私の過去の記事で定電圧ではなく定電流でG2電圧を与える方法について書いてあったのに言及してくださった。こちらはすっかり忘れていたが、そう言えばこんな方法もあるのかと逆に教えられて、さっそくLND150を使った定電流回路に入れ換えた。実装面から言えば場所を取らずコンパクト、まことによろしい。音については、他の変更と一緒に行ったのでなんとも言えないが、すくなくとも悪いところは一切ない。

3)G2電圧のバイパスコンデンサ
当初、C13には手持ちにあった一般的な電解コンデンサ100uFを使っていた。高域が若干弱く聞こえる原因はC11の値だけではなく、このコンデンサの影響だろうと推測。そこでC14を追加した。

4)初段C3mの発振
片チャンネルは安定だったのが、別チャンネルが発振してしまった。発振周波数はおよそ400KHz。もちろん配線ミスはない。ああでもないこうでもないということで、結局C11を入れたら見事に安定になった。当初5pFとして高域カット周波数を35KHzとしていたが、音を聴いてみると若干高域がおとなしく感じる。そこで3pFに変更すると、これが一変して余韻が細やかに広がってすばらしい。


(残された課題)
・C3mのヒーターは終段の電源からもらっていて、電圧を合わせるためにR7, R8を挿入しているが、20Vの規定電圧に若干足りなくて少し不満がある。ここは定電流駆動にしてみたい。

・R14は2N3634のベース電流によって電圧がかかるようになっていて、アイドリング電流設定の役割も兼ねている。なのでどうしても高抵抗値になりVARが使えない。ここは手持ちの進抵抗とした。R14は音に大きな影響があるはず。これが気がかりで、将来なんとかしたい。

・残留ノイズは0.5mVあって、ダブルウーファーではややハム音が聞こえる。またシールドがないために、チッチというような静電誘導によるノイズも耳障りなときがある。ここあたりも対策が必要であろう。

(総合評価)
このアンプは300Bシングルアンプに追いつくことを目標として設計を始めた。当初は終段にもゲインをもたせたソース接地で攻めたのだが、どうしても音が腰高で満足できない。
今の私の技量ではソース接地でよい結果を得ることは難しいと判断し、ドレイン接地(ソースフォロワ)とした。実を言えばドレイン接地は以前も試しことがあって、そのときは平凡な音しか出ず、がっかりした記憶がある。何も手を打たなければ、今回も失敗する可能性がある。

そこで300Bシングルアンプに範をとって初段をC3mの五結とした。これが決め手となった。C3mの五結はすばらしい。独特の濃厚で重心の低い音はここから出ているに違いない。 なので300Bシングルアンプとよく音の傾向がよく似ている。
もちろんそれだけではない。終段GaN素子は2N3634のエミッタフォロワでドライブしたことも効いているに違いない。

純粋の真空管派の方がご覧になれば、半導体を混ぜたこんな回路は歯牙にもかけないだろう。けれども真空管と半導体の両方のよいところをうまく活かせば、決して純真空管アンプに引けを取らないアンプを造ることができるのではないか。いろいろ意見はあるかもしれないが、とにかくそういう可能性を切り開いていきたいと願っている。

13D2+2N3634 バッファーアンプ2024年01月11日 20時02分58秒

やっとバッファーアンプの回路がフィクスした。実を言えば、ここに至るまで試行錯誤の連続だった。

最初のバージョンで問題になったのは、入力端子に発生する電圧。このまま電子ボリュームMUSE72323に直結すると、ボリュームを変化させるたびにノイズが発生する。MUSES72323のデータシートにはきちんとこんな場合はCを入れてDCをカットするようにと書かれている。なので使い方の問題なのだが、なんとかこのCを入れない方法はないかと考えた。

DC電圧が発生するのは2N3634のベース電流が流れるため。この問題を解決するために回路を工夫した。それがこれ。
13D2のカソードと2N3634のベースをつないでしまう。少し複雑になることに目をつぶれば、ベース電流の影響から逃れることができる巧妙な回路である(とうぬぼれた)。早速組み立てて音を聴いてみた。

結論。だめだった。なぜかわからないが、最初のバージョンに比べてどこかおとなしくて、迫力が後退する。複雑にした意味が全くない。即没。

次に考えたのが、ベース電流をキャンセルできないかということ。トランジスタ入力のOPアンプの一部ではこの方法が用いられている。それでカレントミラー回路を入れ込んでみた。ブレッドボードにトランジスタ部だけ組み立てて試験してみるとうまく動くように見える。それで本体を組み立てみた。
結果。音はきちんと出るのだが、電源オフ時に発振してしまう。最初、発振しやすいと言われるカソードフォロワー、エミッタフォロワーが怪しいと当たりをつけ、グリットやベースに抵抗を挿入してみたが、全く効果無し。電源回路から回り込むノイズもひどく、ハム太郎状態。おまけにボリューム操作時にノイズも出る。それで回路図にCが入っているのはこのため。これも没になった。

そんなこんなでいろいろ回り道した結果、結局もとの回路に戻った。無理せず素直にCを入れる。こうするとマイナス電源がいらなくなるという大きなメリットが生まれ、電源から回り込むノイズにも悩まなくて済む。
回路図はまことにシンプル。
電源部。
本機の外観。
そして裏面の様子。
シャーシがやや大きくて、全体に間延びした配置になっている。ただ試験をするときには作業がしやすくて助かる。
半田付けが終わったのは1月9日だからまだ音は落ち着いておらず、やや硬い。じっくりと熟成を待つ。

この回路、一つだけ欠点がある。出力電圧がおよそ6V程度あるので後ろにつながるパワーアンプは必ずDCカットすること。300Bシングルアンプはトランス受けなのでその点は問題ない。

そしてもう一つの課題。実はこちらの方がやや深刻なのだが、出力のホットHとコールドCの電圧差がおよそ500mV程度発生する。今はこれを無視してトランスで受けているけれど、あまりよいことではない。これをどう解消するか。今後の課題となった。

13D2 バッファー アンプ(改訂)2023年12月13日 21時49分48秒

前回のバッファーアンプ、音は良かったのだがひとつだけ大きな欠点があった。
MUSES72323は、入力も出力もDC成分があるものをつないではならない。DC成分があると音量切り替え時にノイズが発生してしまうから。なのでそういう場合はコンデンサを入れてDCをカットしなければならない.

前回のバッファ、予想はされたことではあったけれど、やはりノイズが出てしまった。音量調整しなければノイズは聞こえないといっても、使ってみるとわかるがこれが大きなストレスとなる。
ということで、対策をすることにした。

途中経過を省略して、まず回路図から。
続いて電源部も前回の絵には一部ミスがあったので改めて載せる。
改訂の要点は一つ。2N3634単独使用から、2SA726とのダーリントン接続にしたこと。
その理由。2N3634のhfeは50前後。Ic=5mAだからIb=100uAとなる。ベースに20KΩの抵抗がつながればVb=2Vとなる。これがMUSES72323にかかるDC成分となりノイズを発生させる原因となった。
(補足:20KΩはMUSES72323のデータシートに記載された入力抵抗値。2SA726のベースにつながれている100KΩは入力オープン時にグリッドがオープンになることを防ぐために入れてあるものなので、計算には20KΩを使うのが正しい)

ならばIbを小さくすればこの現象を回避できることになる。ダーリントン接続ならば、2SA726のhfe=250とすればVb=8mV程度になる計算。実測ではこれが2mVとなった。実際にMUSES72323につないでみると、まったくノイズは出ない。
欠点としては、半導体の使用数が増えたこと。
いまのところ、ダーリントン接続にする前と比べて大きな変化はないと感じているがもう少し聴き込んでみたい。

最後に実装の様子。 ダーリントン接続されたトランジスタ群。
そしてシャーシ裏の様子。真ん中に銅箔で巻かれたフィルムコンデンサが四本並んでいる(DCカット用)。これは現在撤去している。
最後に出力電圧について。回路図を見ておわかりのとおり、出力電圧は+1.2Vとなっていてゼロではない。わがシステムでは、パワーアンプがすべてトランスによるバランス受けなのでDC成分があっても問題とはならない。
ホット・コールド間の電位差も微小で数mV以下に納まっているし、ドリフトもほとんどない。半導体の選別をきちんとしたこともそうだが、一番は13D2の双極が非常によくそろっているおかげである。