Laptech発振器 試作8号 その12020年05月04日 20時29分23秒

ずっと以前のこと、DACに使える水晶発振器をeBayで物色していたとき、abbasaudioさんが出しているtube clockに目がとまった。(いまも出品している)どうしてわざわざ「古い技術」を使って発振器を作るのか。そこにどんな意味があるのだろうか。興味が湧くとともに、ビンテージ部品を使った基板は古色蒼然としていて、なにか不釣り合いな印象を受けた。

説明文を読むと、「ソフトで滑らかでありながら彫刻的な音形を醸しだし、まさに音楽的(意訳)」と書いてある。眉唾物としてそのときは無視しようとしたのだが、なんだか気になってしょうがない。いっそのこと一台買ってみようかと思っても、目当ての周波数は置いていない。

しばらく考えた。abbasaudioさんの説明が本当だろうか。低ジッターの発振器を作ろうと思うなら、素子が発するノイズを極力抑えることはイロハのイである。その点で真空管はまったく理想から遠いはず。良い音が出るとはちょっと考えにくい。
しかし、世の中は大きく分けて「真空管派」と「半導体派」の二つに分類され、お互いが「こちらが音が良い」と主張して対立し、両者が和解する気配はない。理論から言えば、真空管とトランスを使って「高い」性能のアンプをつくることは至難の業のはず。それなのに熱烈な真空管愛好家が後を絶たず、私もその末席を汚す一人であると自認する。

このことを敷衍するなら、発振器の分野においても理論だけでは優劣を決めることができない世界がある可能性がある。
ということで、真空管を使った発振器を作ることにした。
試作作番は「8号」である。

まずは本体の回路図から。基本はDriscollタイプを踏襲する。使用する真空管はWE406Aである。数年前、これもeBayから購入したもので、確か「倉庫が水をかぶったので格安にします」といういわく付きだったと思う。五極管は構造的にカスコード接続と等価なので、Driscoll発振器が簡単に実現できる。
水晶発振子はもちろんLaptech製。試作なので1個使用する。これが成功したらシリーズ接続に挑戦する予定。
ほかにこれまでと違う点は、リミッターダイオードを入れたこと。これがないと出力が4.5Vp-p、有りだと出力は3.5Vp-p程度になる。ドライブレベルについては、あとで測定する予定だが、メーカー推奨値をオーバーしたくないので、念のため入れておいた。

次に電源回路.
B電源は無帰還の電圧安定化回路としている。基準電圧にはWE427Aを使う。ヒーター電源は定電流回路とする。実を言うと、使った電源トランスのスペックが貧弱で、電圧がぎりぎりになってしまった。後でもう一回り上のトランスに交換する予定。整流ダイオードは手持ちのものをそのまま使った。ヒーター電源については、そのうち理想ダイオードブリッジに置き換えたい。

全体の姿形については、次のコラムで。

Laptech発振器 試作8号 その22020年05月04日 21時25分18秒

まずは全体の様子から。
次に本体の姿。
WE406Aはシールドされている。シールドを使ったのは初めてである。普通のアルミ色のものは色気がないので、わざわざ黒色を選んだ。

続いてリミッターが入っていないときの出力の波形。

これまでの試作機に比べて形が美しい。リミッターを入れた波形は撮影するのを忘れしまったけれど、もっと正弦波に近づくように思われる。あとでスペクトラムアナライザで観測するのが楽しみである。
バリアブルコンデンサを調整していて気がついたのだが、非常にクリティカルでちょっと回しただけで発振が止まる。回路全体のQが高いという印象。これもいままでなかった。
こんなに同調ポイントが狭いのに、なにも手を加えずとも一発で発振してくれたのは幸運だった。ここで何も出力がなかったなら、かなり気落ちしてしまっただろう。GaNを使った試作7号でさんざん苦労した疲れが一変で吹っ飛んだ。

さて、音はどうなったか。これは次のコラムで。

Laptech発振器 試作8号 その32020年05月04日 21時45分58秒

当初はジッターがひどくて、平凡な音になるのではと予想していた。ところが出てきた音を聴いて驚いた。

電源を入れた直後は大暴れしてまともな評価ができないので、10時間放置してからじっくり聴いた。

eBayのabbasaudioさんが書いていた印象記は嘘ではなかった。半導体アンプから真空管アンプに置き換えたときの違い、あれと類似している。

これをどのように表現したらよいのかと考えた。カメラのことは詳しくないのだが、例えれば半導体を使った発振器は白色の非常に強力な光で被写体を照らしたようなもので、細部がよく見えるのだがやや平面的で人工的、長いあいだ見ているとなんだか疲れてくる。
いっぽう、真空管を使った発振器は、適正な色温度で照らした被写体のようなもので、実に陰影が作り出す姿が立体的で人間の目で見たものに近い。長く聴いていても音が身体に染みわたるようである。二つの音を比べて、半導体水晶発振器はデジタル的、真空管水晶発振器はアナログ的と言うこともできる。不思議だ。

真空管にしたから空間描写があいまいになるとか、音に癖が出るようなことは感じられず、いまのところ欠点は見当たらない。

最初の5分、この音を聴いて今まで使っていた半導体水晶発振器の電源を落とす決断をした〔24時間通電している)。もう元に戻れないだろう。

最初は半信半疑から始まったこのプロジェクト、一発で成功できたのはLaptech水晶発振子を入手できたことと、7号機に至るまで何度も試作を繰り返して勘をつかんでいたことも助けになった。

試作8号 問題発覚2020年05月12日 22時33分31秒

試作8号機の出力レベルは50Ω負荷で5Vp-p程度あって、水晶発振子のドライブレベルが気になっていた。一応対策として、WE406Aのグリッドにリミッターとしてダイオードを入れて、振幅制限をかけておいた。

ここ一週間、24時間通電してエージングを進めてきた。日によってコロコロ音が変化していく。それが落ち着いてくると、やっと素顔が見えてくる。人の声にごくわずかだが付帯音が聞こえる。

そこでスペクトラムアナライザで観測。それが次の波形。

基本波の横に側帯波が盛大に出ている。心配したとおり、ドライブレベルが大きすぎた。これではだめだ。

そこで試作9号機に移ることにした。

試作9号 その12020年05月12日 22時49分10秒

試作8号は 水晶発振子が1個。
試作9号は 試作6号で使った水曜発振子をそのまま移植して2個シリーズ接続とする。

回路は以下の通り。
変更したところは2カ所。水晶発振子が2個になっていることと、出力にアッテネータを入れたこと。ただ適当な抵抗がなかったので、インピーダンスは合っていない。おもしろいことにR11を100Ωから200Ωにすると急激にQが小さくなり、同調領域がかなりブロードになる。負荷にも適正な値があるようだ。