GaN 単段アンプ その3 ― 2021年03月01日 14時03分25秒
いつものことであるが、その後いろいろ不具合が見つかって、修正を加えた。と、結果だけ書けばいかにもすんなりといったかのように思われるが、実情はその反対で、暗闇を手探りで進むかのようなときもあった。
・不具合 その1
テスターをみながらドレイン電流を設定し、そのまましばらく様子を見ていたときは、きわめて安定していたように見えたので、その後24時間通電状態にしておいた。
翌朝確認してみると、やけにコイルが熱くなっている。手で触れないほどではないにしても、あきらかに異常な状態。
原因はわかってしまえば「ああ、そういうことか」となるのだが、最初はとまどった。要するに、GaNから見れば熱的に負の暴走状態に陥ってしまったということ。
GS66502Bは温度上昇とともにドレイン電流が減少する性質なので、一般的にはバイポーラトランジスタのような温度補償は必要なく、定常状態になると電流は安定する。今回のケースもそうなると期待していた。
しかし、ドレインには銅線コイルがある。その銅なのだが、電流が流れると抵抗成分によって温度が上昇し、抵抗値が増大する。
いっぽうGaNのほうは五極管に似た性質なので、gsが一定だとコイルの抵抗値が増大してドレイン電圧Vdが低下しても電流値はほとんど変わらない。
その結果、銅線コイルは時間とともに温度が上昇し、それに伴い抵抗値が増大し、ドレイン電圧はゼロに近づき増幅回路としてはまともには動かなくなる。その代わり、コイルの消費電力が増大し熱くなった、ということだった。
そうすると対策はおのずと見えてくる。ドレイン電圧Vdが低くなれば、Vgsも小さくなるようなフィードバックがかかるようにすればよい。
・不具合 その2
最初にまず左チャンネルを作り、諸特性を測定した。その結果は前回の報告の通りで、ひずみ率は期待した値におさまったので、右チャンネルもこのまま作ればよいと判断した。
下は、VP-7723Bで測定している様子。
ところが作って特性を測定してみると、目を疑うほどひずみ率が悪い。0.1W出力で1%を超え、1W出力では目も当てられないような数値となった。最初は、何か部品が壊れているのかと疑い、左右チャンネルの部品を一個一個入れ替えてみても、現象変わらず。
GaNを新しいものに変えてもダメ。これにはまいった。
今から考えれば、同じ電流値を設定しようとしても右チャンネルだけ、やけにVgsが高いのは気になっていたが、それもなぜかはわからなかった。
途中を省略して結論をまとめれば、不具合に至る要素は二つあったと思われる。
1)入力トランスに使ったPO400601の一次巻線は二つあって、一つはインピーダンス40Ωとして、かつての調整卓で使われていた実績がある。しかし、もうひとつの巻き線の正体が不明で、調整卓の回路図にも載っていない。インダクタンスは測定できたので、使えるものと判断したのだが、期待通りに動いていない可能性を捨てきれない。よくわからないものをNFBとして使うのは、やはりよくない。避けることにする。
2)これは試行錯誤してわかってきたことなのだが、GaNが低ひずみ率で動作する領域は意外に狭く、理想領域から少しでも外れるととたんにひずみ率が跳ね上がる。
当初、ひずみ率を改善するには、ドレイン電圧を上げればよいし、ドレイン電流を増やせばよいと単純に思っていたので、反対の結果が出たときは頭を抱えてしまった。
左チャンネルではうまくいったのは偶然に過ぎなかった。
これらの対策を加えた最新の回路図は以下の通り。
・不具合 その1
テスターをみながらドレイン電流を設定し、そのまましばらく様子を見ていたときは、きわめて安定していたように見えたので、その後24時間通電状態にしておいた。
翌朝確認してみると、やけにコイルが熱くなっている。手で触れないほどではないにしても、あきらかに異常な状態。
原因はわかってしまえば「ああ、そういうことか」となるのだが、最初はとまどった。要するに、GaNから見れば熱的に負の暴走状態に陥ってしまったということ。
GS66502Bは温度上昇とともにドレイン電流が減少する性質なので、一般的にはバイポーラトランジスタのような温度補償は必要なく、定常状態になると電流は安定する。今回のケースもそうなると期待していた。
しかし、ドレインには銅線コイルがある。その銅なのだが、電流が流れると抵抗成分によって温度が上昇し、抵抗値が増大する。
いっぽうGaNのほうは五極管に似た性質なので、gsが一定だとコイルの抵抗値が増大してドレイン電圧Vdが低下しても電流値はほとんど変わらない。
その結果、銅線コイルは時間とともに温度が上昇し、それに伴い抵抗値が増大し、ドレイン電圧はゼロに近づき増幅回路としてはまともには動かなくなる。その代わり、コイルの消費電力が増大し熱くなった、ということだった。
そうすると対策はおのずと見えてくる。ドレイン電圧Vdが低くなれば、Vgsも小さくなるようなフィードバックがかかるようにすればよい。
・不具合 その2
最初にまず左チャンネルを作り、諸特性を測定した。その結果は前回の報告の通りで、ひずみ率は期待した値におさまったので、右チャンネルもこのまま作ればよいと判断した。
下は、VP-7723Bで測定している様子。
ところが作って特性を測定してみると、目を疑うほどひずみ率が悪い。0.1W出力で1%を超え、1W出力では目も当てられないような数値となった。最初は、何か部品が壊れているのかと疑い、左右チャンネルの部品を一個一個入れ替えてみても、現象変わらず。
GaNを新しいものに変えてもダメ。これにはまいった。
今から考えれば、同じ電流値を設定しようとしても右チャンネルだけ、やけにVgsが高いのは気になっていたが、それもなぜかはわからなかった。
途中を省略して結論をまとめれば、不具合に至る要素は二つあったと思われる。
1)入力トランスに使ったPO400601の一次巻線は二つあって、一つはインピーダンス40Ωとして、かつての調整卓で使われていた実績がある。しかし、もうひとつの巻き線の正体が不明で、調整卓の回路図にも載っていない。インダクタンスは測定できたので、使えるものと判断したのだが、期待通りに動いていない可能性を捨てきれない。よくわからないものをNFBとして使うのは、やはりよくない。避けることにする。
2)これは試行錯誤してわかってきたことなのだが、GaNが低ひずみ率で動作する領域は意外に狭く、理想領域から少しでも外れるととたんにひずみ率が跳ね上がる。
当初、ひずみ率を改善するには、ドレイン電圧を上げればよいし、ドレイン電流を増やせばよいと単純に思っていたので、反対の結果が出たときは頭を抱えてしまった。
左チャンネルではうまくいったのは偶然に過ぎなかった。
これらの対策を加えた最新の回路図は以下の通り。
GaN 単段アンプ その4 ― 2021年03月01日 14時54分38秒
最初のブレッドボードは、ジャンク箱に眠っている部品をかき集めて作った。その後、MouserからKEMETの電解コンデンサが届いたので、それに入れ替えた。ただし、出力コンデンサだけは注文数を間違えて一個しか届かなかったので、現在再発注をかけているところ。
対策した回路は、2月25日に左右チャンネル分ができあがった。それ以来24時間通電状態においてエージングを重ねている。
以下はいまの状態。
最初に出てきた音は、耳に突き刺さるようなとげとげしさとまとまりに欠け、まったくひどかった。
その後、時間とともに熟成が進み、およそ100時間経過した今日の状態では、まだまだではあるけれど音の姿形はだいぶ整ってきた。
音の評価は、他のアンプを基準にするのが一番わかりやすい。私の場合は、初段にWE420A、終段にGaNを使ったサークロトロンとKT88pp真空管アンプとの比較となる。
音で言えば、おなじGaNを使っているせいかサークロトロンと似ている。しかし、印象が全然違う。これがたった一個の能動素子で稼働しているアンプなのかと、だれもが疑うのではないか。とにかく、音が前に出てきて立体的で、サークロトロンもかなりよいと思っていたけれど、この音を聴くと「あっさりして薄い」と言わざるを得ない。実に音が濃密で、なおかつ押し寄せてくる。
回路を見るなら「原始的」で、増幅機が発明された百年前と基本的には変わらない。それなのにこんな音が出てくる。一体今まで何をしてきたのだろうかと呆然とする。これが、GaN素子と空芯コイルが作り出す音なのだろう。
GaN素子はD級アンプの出力段で使われることはあっても、シングルエンドのA級アンプに使われるケースは寡聞にして知らない。すこし大げさかもしれないけれど、GaNをアナログ・オーディオ・アンプに応用した場合に、どのような音を出すのかを検証した初めての報告ではないか。
この音を聴いてしまったら、これからは、このスタイルのアンプしか作らない(作れない)だろうという予感がする。
オヤイデから送られてきたままの姿ではあんまりなので、最終の評価はコイルをきちんと巻き直してからにする。
対策した回路は、2月25日に左右チャンネル分ができあがった。それ以来24時間通電状態においてエージングを重ねている。
以下はいまの状態。
最初に出てきた音は、耳に突き刺さるようなとげとげしさとまとまりに欠け、まったくひどかった。
その後、時間とともに熟成が進み、およそ100時間経過した今日の状態では、まだまだではあるけれど音の姿形はだいぶ整ってきた。
音の評価は、他のアンプを基準にするのが一番わかりやすい。私の場合は、初段にWE420A、終段にGaNを使ったサークロトロンとKT88pp真空管アンプとの比較となる。
音で言えば、おなじGaNを使っているせいかサークロトロンと似ている。しかし、印象が全然違う。これがたった一個の能動素子で稼働しているアンプなのかと、だれもが疑うのではないか。とにかく、音が前に出てきて立体的で、サークロトロンもかなりよいと思っていたけれど、この音を聴くと「あっさりして薄い」と言わざるを得ない。実に音が濃密で、なおかつ押し寄せてくる。
回路を見るなら「原始的」で、増幅機が発明された百年前と基本的には変わらない。それなのにこんな音が出てくる。一体今まで何をしてきたのだろうかと呆然とする。これが、GaN素子と空芯コイルが作り出す音なのだろう。
GaN素子はD級アンプの出力段で使われることはあっても、シングルエンドのA級アンプに使われるケースは寡聞にして知らない。すこし大げさかもしれないけれど、GaNをアナログ・オーディオ・アンプに応用した場合に、どのような音を出すのかを検証した初めての報告ではないか。
この音を聴いてしまったら、これからは、このスタイルのアンプしか作らない(作れない)だろうという予感がする。
オヤイデから送られてきたままの姿ではあんまりなので、最終の評価はコイルをきちんと巻き直してからにする。
GaN 単段アンプ その5 ― 2021年03月01日 15時42分15秒
今の回路での諸特性を記しておく。
電源電圧 22.8V
ドレイン電圧 15.3V
周波数帯域(-3dB) 40Hz〜45KHz
Gain: 24dB (ただし発振器の出力インピーダンスが600Ω場合)
最大出力(THD 5%時) 3W
THD(%)
出力(W) 0.01 0.1 1
100Hz 0.28 0.52 2.01
1KHz 0.36 0.21 1.43
10KHz 0.52 0.24 1.61
電源電圧 22.8V
ドレイン電圧 15.3V
周波数帯域(-3dB) 40Hz〜45KHz
Gain: 24dB (ただし発振器の出力インピーダンスが600Ω場合)
最大出力(THD 5%時) 3W
THD(%)
出力(W) 0.01 0.1 1
100Hz 0.28 0.52 2.01
1KHz 0.36 0.21 1.43
10KHz 0.52 0.24 1.61
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