KT88pp 固定バイアス電源を考える2018年05月23日 22時03分35秒

真空管アンプの固定バイアス電源の音に対する影響について具体的に言及したのは、私の知る限り松並希活先生が初めてではなかっただろうか。(写真はその記事が掲載されいている無線と実験1994年2月号)

この記事によれば、終段管(300Bpp)のバイアス電源の整流に6AL5を使用した結果、「従来のダイオードと違った力強く厚みのある音と同時に、ふくよかな雰囲気のある再生音を得ることができた」とある。ところがなぜか先生のその後の記事で再び採用されることはなかったし、追随する方もとうとう現れなかった。まことに不思議である。

KT88ppアンプの固定バイアス電源の整流ダイオードをInfineonのSiCからGaN(GS666502B)に入れ替えてから9日間が経過した。毎日およそ4時間通電しているので、エージングが完了するのは遠い先である。現時点では、低音が薄く高い周波数域にエネルギーが偏っていてやや足が地に着いていない。それでもSICダイオードからは得られなかった音が聞こえる。

SiCダイオードの時は、低音がゆるく、高い方の音の減衰がはやく始まり、それは無帰還のためにダンピングファクターが小さいのと出力トランスの限界によるものだろうとあきらめていた。ところが、GaNに入れ替えると、あれほど不満に思っていた欠点がほとんど感じられない。この先どう変化していくのか、もう少し様子を見ていく。

真空管アンプの終段を自己バイアスとするか固定バイアスとするか、これまでいろいろ議論があった。世の中は、概ね「長期安定性」と「メンテナンスフリー」のメリットが勝って自己バイアス派が優勢で、固定バイアス派は肩身が狭い(?)

固定バイアスがなかなか普及しない理由は実はほかにもあって、整流素子にSiダイオードを使っていたため、このことが足を引っ張ってしまい、固定バイアス駆動のメリットが聴き取れなかった、それで固定バイアスが歴史的に敬遠されてきたのではないか。
以前は、真空管派が半導体を極端に毛嫌いするのを見て複雑な思いがあったが、今なら理解できる。

もしGaNが固定バイアス電源の整流素子として有望であるなら、真空管アンプの将来に少なからぬ影響を与える可能性がある(と、おおぼらを吹く)。