LCフィルターの検討2005年10月05日 19時53分36秒

 悩んでもしょうがない。重い腰を上げてLCフィルターの検討を始めることにした。参考文献は前出の無線と実験、92年8月号に掲載された徳久誠一氏の「DAC回路の検討」である。
 TDA1541Aの出力は現在ストレートにI/Vコンバータに接続されている。I/Vコンバータは電圧増幅型だから、スルーレートには制約があるはず。徳久氏によれば、このような場合適切なLCフィルターを入れなければ、TIM歪みを生ずる可能性があると言う。我が装置はまさにそのような状況にあるということ。
 いろいろ考えた結果、ベッセル型3次フィルターとした。理由は簡単。現在手元にある部品を最大限有効に利用するためである。実は、DACには当初から出力部分に30000PFのコンデンサーを入れて簡単なローパスフィルターをかましてある。もう何年も前に作ったので、今回検討を始めるまですっかり忘れていたのだ。それも双信のSEコンという優れもの。これを最大限利用しない手はない。
 計算結果、フィルターは次のような仕様になった。
 C1=30000PF (SE)
 L1=0.67mH
 C2=6100PF(5100PF//1000PF SE)
 R1=180Ω (YAM)
 コイル以外、すべて手持ち部品である。fc=43KHzとなる。豪華なSEコンが使えるのがうれしい。それにYAM抵抗も最後の手持ちである。ただコイルだけはもっていない。で、どうしたか。それは次の欄で解説する。

回路シミュレータの威力2005年10月05日 20時11分21秒

 前から使いたかったのが回路シミュレータである。複雑な回路を動かすためにはそれなりの勉強が必要だが、LCフィルター程度であれば簡単にできそうだ。問題はフリーで入手できるシミュレータがあるかどうか。なにしろMacOSXを使っている。ネットで調べると、かなり限られてくるようだ。最終的にダウンロードしたのが、MI-SUGAR Ver.0.5.7である。詳細なマニュアルもついている。シミュレーションエンジンは、デファクトスタンダードとも言えるSPICEが使われている。
 最初、マウスでちょいと配線すればすぐに出来上がりと思ったが、そうは問屋が卸さなかった。GUIはかなり貧弱。結局手でネットリストを入力し、解析パラメーターを設定してやらなければならなかった。サンプルを見ながら数日苦戦したが、なんとか動くようになった。わかってしまうとそれほど難しくない。SPICE関連の参考書を買わなくてもなんとかなる。
 さて今回なぜシミュレータを使う必要があるのか。手持ちのコイルが一つだけある。0.5mHである。しかし計算上必要なのは0.67mHとなっている。最初はトリテックのものを買わなければと思った。しかし貧乏人には簡単に買えない値段である。2個で4000円近い。そこで手持ちのコイルでどこまで行けるのか検討したいのだ。
 シミュレーションすると次のようになった。
   ☆L1=0.67mH
     10KHz; -0.1dB 20KHz; -0.3dB
   ★L2=0.50mH
     10KHz; -0.3dB 20KHz; -0.9dB
さらに高い周波数になると減衰率はさすがに正規のベセル型が高くなる。100KHzあたりではそれなりの差が出る。しかし、意外にも0.5mHでもそこそこ行けそうな感触を得た。とりあえずこのまま行ってみよう。試聴結果がよければ、いつかトリテックに替えれば良い(お金があればだが)。
 
 ついでに今までどんな状態で使っていたのかも知りたくなった。前回書いたようにこれまでは30000PFをぶら下げただけの簡単なローパスフィルターを入れていた。どれだけの効果があったのだろうか。思い出してみると、なぜこの数値にしたのか確たる根拠はなかったと思う。手持ちのSEコンがあったからということだけだった。(昔はすごいお金持ちだった)
 シミュレーション結果に少なからず驚いた。
    ★C1=30000PFのみ
      10KHz; -0.6dB 20KHz; -1.7dB
 思ていたよりもかなり高域の減衰量が大きいのだ。当然音にも影響を与えていたはずである。これぞシミュレーションの威力である。早速LCフィルターを入れることにした。

LCフィルターの実装2005年10月05日 20時37分17秒

 そこで問題となるのはどのようにしてLCフィルターを実装するかである。DACのケース内には、大きなコイルを入れる余地がない。それ以前に、ノイズのことを考慮するとDAC内にコイルをシールドなしで置くことは避けなければならない。そのためになおさらスペースが必要となる。ということでI/Vコンバーターのケースに収めるのがふさわしく思えてくる。見るとちょうどコイルをのせられるような基板がすでに取り付けられてある。渡に船。ここにコイルを置くこととする。というよりも、最初からコイルがのせられることが予定されていたと思えるほどぴったりなのだ。
 写真はその様子。コイルはスピーカから取り出したフォステックルのネットワーク用のもの。左右のコイルが誘導結合しないように、軸を90度ずらしてある。ただしこのときは、巻き始めと巻き終わりの統一を左右でしていなかった。つまりコイルの巻き初めを入力にするのか、それとも出力に接続するのかということ。後から気がついたら左右では逆になっていた。写真は逆になった状態である。物理的にはどちらであってもかまわないはずなのだがこれが、後で問題となる。出てきた音が左右で異なったのだ。そのことはまた別の記事で。

R1の位置2005年10月06日 08時46分14秒

 ついでにLCフィルターのR1の写真も紹介する。スフェルニースのYAM抵抗180Ωである。ボリュームの端子に無造作にハンダ付けしてある。将来がっしりとした基板に固定したいところだが、これも結局バラックになってしまった。

結果2005年10月06日 17時29分21秒

 LCフィルターをハンダ付けした直後に音出しをしてみた。もちろんエージングが必要なことは知っているが、はやる心を抑えられないのも確か。
 最初の印象は、以前とあまり変化がないような気がした。期待が大きかっただけに、落胆してしまった。妻が一緒に聞いていて「がさついている」と一言。認めたくないが、そのとおりだ。でも電源を入れてから本領を発揮してくるまでは30分はかかる。じっと待つことにする。
 徐々に効果が現れてきた。以前と全く違うと言えるほど変化した。最も印象的なのはピアノの弦の響きである。微妙な揺らぎが手に取るように聞こえてくるようになった。この揺らぎが聞こえるからこそピアノが表情豊かになっていくのだ。演奏者の心が音となって表現されていく。
 落ち着いて聞いていくと、この他にも二つの明瞭な変化があった。
 一つは、音が静かになったことである。楽音に付帯するノイズが聞こえにくくなった。どんなに音量を上げても緊張しない。以前ならばフォルテシモになると汗がにじんだりしたものだ。自然な音になったということだろう。無音時のノイズも減った。曲の冒頭と最後に聞こえていた「ちりちり」というような原因不明のノイズもない。
 二つ目は、高音域が少し持ち上がったことである。これはシミュレーションから予想されていたが、ここまで違うとは少々驚きだった。以前からツィーターがあればと思っていたが、これで必要性を感じなくなった。高音が加わることで、低音域の表情も明瞭になった。
 LCフィルターの効果は絶大であった。最も重要な部分を今まで見逃していた。ひとえにコイルは諸悪の根源という先入観があったからだ。コイルを使うくらいなら、簡単なCRフィルターがベターと思い込んでいた。
 こうなると、これまで無線と実験やラジオ技術に発表されてきたDACの記事が気になってくる。簡単なCRフィルターで済ましておいて「良い音だ」と結論づけているようなものも散見されるが、本当にそうなのかどうか。なんでも鵜呑みにせず、とにかく自分でやってみること。これが大事だ。
 デジタル技術が登場した頃、もはやオーディオはやることがなくなったかのようなイメージが宣伝されていた。でもデジタル技術を使いこなすために、それなりの年月と多くの人たちの地道な研究が必要であったことを思う。またメーカーだけではない、アマチュアの人たちの努力というものもデジタル技術の進歩に貢献してきたのだ。